竹内結子らの不自然死が事件にならない理由

芸能人の連続不審死を警察と報道はなぜ自殺と決め付けたのか?
総合的な不審死対策

この記事は、後追い自殺防止(2次的対応)よりも、抜本的な自殺防止を優先します。 抜本的な自殺防止とは、自殺者が死を選んだ要因を明らかにし、可能なら自殺要因を取り除くことによって、未来の自殺者を減らすことです。それ以前に、他殺の可能性を排除すべきではありません。こうした総合的な不自然死対策を検討するために、自殺という言葉、自殺に用いた手段、自殺が発生した現場や場所をできるだけ正確に伝えます。

総合的な不審死対策

「プライバシー保護のために情報が抑制されている」

芦名星氏の死亡報道以降、自殺として報道しながら、ブライバシーを盾に、自殺と判断した理由が伏せられるようになった。しかし、自殺を決め付けて速報することが、故人の尊厳や、遺族への配慮に沿っているとは言えない。

「後追い自殺・模倣自殺を防止するため」

WHOによる自殺予防の手引きを後ろ盾として、報道を擁護する記述も多い。しかし、他殺の可能性を考えないことは、犯罪死の見逃しという別問題の発生に直結する。なお、自殺が本人の意思であるのに対し、他殺(犯罪死)は犯罪なので、「犯罪死の見逃し防止」は、より高い優先順位で扱われるべきものである。

それゆえ、竹内結子ら著名人の連続不審死に関して、報道する側が配慮すべき点は、次の3つである。

  1. 犯罪死の見逃し防止 – 社会(治安)の問題
  2. 模倣自殺の防止 – 社会(集団)の問題
  3. プライバシー保護 – 個人の問題

これら3点が配慮されたなら、報道は次のようになっていたはずだ。

俳優の〇〇氏が自宅で死亡
警察は、事件の可能性も含めて慎重に捜査している。

それなのに、すべてのメディアが次のような報道を連続して行ったから、不審感が広がったといえる。

俳優の〇〇氏が自宅で死亡 自殺か
(捜査)関係者は、自殺と見ている。

この記事に、連続不審死の真相を明らかにする情報はありません。あるのは、真相究明を阻害する要因の考察です。真実を知りたい人を満足させることはできませんが、同じような事件を抑止することができると考えています。それにもし、この国に事件を事件として扱う正義があったなら、失わずに済んだ命もあったはずだ。

自殺を決め付けた報道が行われるばかりで、他殺が疑われない要因を掘り下げることによって、犯罪死の見逃し防止において、この国に絶望的な瑕疵があることを明らかにしたい。

なお、この記事は、三浦春馬氏の死亡後にまとめた4つの記事を一部引用しているので、そこに重複があります。

三浦春馬、芦名星、竹内結子と続いた不自然死

7月18日 三浦春馬

病院で死亡が確認されたわずか54分後の速報で、首つりによる自殺であると報道された。各テレビ局は、競うように、センセーショナルなテロップ入りで何度も繰り返し報道した。

自殺を断定する報道は、多くの人に違和感を感じさせた。また、異例の早期密葬が証拠隠滅を疑わせたことや、所属事務所の証言が変遷したなどが、自殺報道への不審感を募らせた。

噴出する疑惑

9月14日 芦名星

自宅で首を吊った状態で死亡しているところを、訪問した親族が発見した。ただし、芦名星氏以降、メディアは死亡時の情況の次第に伏せるようになった

9月27日 竹内結子

自宅クローゼットの中で首をつった状態でぐったりしているところを、夫で俳優の中林大樹氏が発見し、搬送先の病院で死亡した。やはり、自殺を決め付けた報道が行われた。

2021年12月18日 神田沙也加

転落死と速報され、後に北海道警察は、司法解剖の結果から事件性を完全に排除した、突き落としも飛び降り自殺も外因としては同じ結果となるが、道警はその説明をせずに事件性を排除した。また道警は、15cmしか開かない窓からどうやって転落したのかの説明もしていない。

厚労省の後追い自殺防止策が疑惑を覆い隠す

2番目に死亡した芦名星氏以降、厚生労働省は、「後追い自殺」防止のため、メディアに対し、自殺手段を明確にしないこと、自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと、などを求めた。その結果、芦名星以降、マスメディアは、現場の詳細な状況を伏せるようになった。

厚労省の「著名人の自殺に関する報道にあたってのお願い」について

それらが本当に自殺なのであれば、厚労省の「お願い」には理由がある。しかしながら、何らかの理由で、メディアが他殺の可能性を封印し、自殺の決め付け報道をしている場合、厚労省の「お願い」は、本来の意図から離れ、真実を覆い隠す効果を持つこととなる。

言い換えれば、厚労省のお願いを利用することによって、メディアは他殺の可能性を封印することが可能だ。

詳細が報道されれば、自殺報道に違和感を持つ人たちの声があがり、メディアもその声を無視できなくなる。そして警察も、殺人事件として扱わざるを得なくなくなる。これが社会的要請の効果である。一方、自殺がゆるぎない事実であることを前提とした厚労省の「お願い」は、社会的要請の発動を阻害している可能性があるのだ。

社会的要請が発動した実際のケース

川崎老人ホーム連続殺人事件では、わずか1ヵ月程度の短い期間に、3人が同じ場所で転落死したにもかかわらず、警察は捜査をしなかった。

それが事件発覚から10か月以上経った後、他殺疑惑が報道され、ようやく捜査が始まった。捜査の末、病院職員が老人を転落死させたとして、殺人罪で起訴され、死刑判決をうけた。

川崎のケースでは、他殺疑惑をメディアが報道したことによって、警察が捜査せざるを得ない状況がつくられた。

警察とメディアが癒着している場合においては、多くの人の「なぜ?」をメディアが代弁することはない。そして、事故や自殺を偽装した殺人は、疑惑のまま、闇に消えることとなる。

なぜ報道機関は自殺を決め付けるのか

そして、多くの人の「なぜ?」と疑問を持つのは、自殺を断定するには不自然な点が多いにもかかわらず、メディアが自殺を決め付けて報道していることだ。

メディアが自殺を決め付ける理由の前に、先ず、警察がどうやって「犯罪性なし」を判断したのかを見てみよう。

だれがどうやって自殺を判断するか

最初の分岐点-死体のスクリーニング

警察官が行うスクリーニングで、異状死体(警察の取り扱う死体)は、犯罪死体、変死体、非犯罪死体に分けられる。

最初の分岐点(スクリーニング)がどう行われているかを示す文書は、ネット上にほとんどない。ようやく見つけた次の文献にも具体的な手順は示されていないが、警察官が判断していることに間違いはないようだ。

死体のスクリーニング

刑事課は、犯罪の嫌疑の有無の観点から死体外表や死亡状況等を調べ、死体を犯罪死体、変死体、非犯罪死体の三種に分類する。この異状死体の三分類は、旧犯罪捜査規範において規定されていたものであるが、現在の犯罪捜査規範(昭和32年国家公安委員会規則第2号)及び検視規則にはかかる規定は見られない。しかし、捜査実務においては、現在もこの三分類を基準として異状死体の取扱いが行われているようである。

我が国の検死制度-現状と課題

非犯罪死体

最初の分岐点(スクリーニング)で犯罪性なしと判断された場合、次に警察の死体見分、その後に医師が検案を行う。ただし、次のようなケースでは、医師の検案の後に、警察の検視または死体見分が行われることとなる。

  • 事故による死体の検案を行う過程で犯罪性が疑われ、警察に届出がなされた。
  • 救急搬送された病人の死体を検案していたところ、毒死が判明したため、警察に届出がなされた。

変死体

犯罪性の疑いがあるとして変死体に分類された死体は、警察官による検視で犯罪性の有無が判断される。つまり、犯罪件性の判断は、最初のスクリーニングと次に示す検視、2か所の分岐点で行われている。そして、2か所とも、判断をしているのは警察官である。

2番目の分岐点ー検視

検視の前に検案との違いを理解しておこう

「警察における死因究明等の推進」の図表(警察庁)

検視と検案は、似た言葉であるが、規定する法律が違う。それなのに、警察は、ふたつをごっちゃに示そうとする傾向が極めて強い。

そこで、わかりにくい検視の前に、検案とは何かを先に理解しておこう。

検案とは、医師が死体検案書を作成するための作業である。生体には、診断を行われ、診断書が出されるに対し、死体、あるいは救急で搬送された後に死亡したケースに診断はできないし、(死亡)診断書も出せない。死体に対して、医師は、検案を行い、(死亡)診断書の代わりに死体検案書を出すのである。

なお、作業の流れとしては、次の項に示す『検視』で犯罪性の有無が確認された後に検案が行われる。検案は、医師法に基いて行われており、捜査のための作業ではない。だから、法医学的な検査はできない。なお、検案で作成される死体検案書は、入院患者等が死亡した場合の死亡診断書に代わる書類である。

警察が検視と検案をごっちゃにしたがるのは、事件性の判断に医師が関与しているかのように見せられるからだろう。

現実として、警察が検案に呼んだ医師に対し、検視/死体見分の立会いのような作業をさせているケースを、警察医らへのアンケートに垣間見ることができる。

警察がごっちゃにしたがる傾向を示すために、2012年に警察庁が作成した図表を引用した。これは「警察における死因究明等の推進」からの抜粋である。

「警察における死因究明等の推進」の図表(警察庁)

図表には、検視・死体見分への(医師の)立会いが、検案に内包されるかのように描かれている。しかしながら、ふたつは根拠法が違うので、検案作業(医師法)のなかに検視・死体見分の立会い(刑事訴訟法)を内包して描くことは、法律的・制度的に正しくない。

検視とは

検視は、犯罪性の有無を判断する作業である。犯罪性が明らかな死体には、検視でなく、死体見分が行われる。検視の具体的な手順は、検視規則第6条に規定されている。

  1. 検視に当つては、次の各号に掲げる事項を綿密に調査しなければならない。
    1. 変死体の氏名、年齢、住居及び性別
    2. 変死体の位置、姿勢並びに創傷その他の変異及び特徴
    3. 着衣、携帯品及び遺留品
    4. 周囲の地形及び事物の状況
    5. 死亡の推定年月日時及び場所
    6. 死因(特に犯罪行為に基因するか否か。)
    7. 凶器その他犯罪行為に供した疑のある物件
    8. 自殺の疑がある死体については、自殺の原因及び方法、教唆者、ほう助者等の有無並びに遺書があるときはその真偽
    9. 中毒死の疑があるときは、症状、毒物の種類及び中毒するに至つた経緯
  2. 前項の調査に当つて必要がある場合には、立会医師の意見を徴し、家人、親族、隣人、発見者その他の関係者について必要な事項を聴取し、かつ、人相、全身の形状、特徴のある身体の部位、着衣その他特徴のある所持品の撮影及び記録並びに指紋の採取等を行わなければならない。

検視は誰が行うか?

検視を行うのは、検察官と規定されている(刑訴法229条)が、拘置所内での死亡等の特殊なケースを除けば、ほとんどすべてを警察官が行っている(同条2項代行検視)。警察官(または検察事務官)による検視の代行の場合は、「医師の立会を求めてこれを行い、すみやかに検察官に、その結果を報告するとともに、検視調書を作成して、撮影した写真等とともに送付しなければならない。(検視規則第5条)」とされている。

なお、警察庁は、検視官という職位を創設し、検視官(中身は警察官)に検視させることを推進している。

検視に医師の立会いはあるか?

刑事法令研究会編『逐条解説 検視規則・死体取扱規則(4訂版)』東京法令出版の42-43ページを参照した中根憲一(行政法務調査室)の文献には、次のように記してある。

変死体の検視にあたっては、医師の立会いが義務づけられている(検視規則第5条)。医学上の専門家である医師の意見を徴することにより、変死体の取扱いに過誤なきを期するためである。変死体の検視の場合は、死体取扱規則に基づく非犯罪死体の見分の場合と異なり、医師の立会いを省略することは許されない。

立会い医師は、死亡の確認にとどまらず、死亡の年月日時、死亡の種類、死亡の原因等について調査を行うが、専門的な医学所見として、犯罪との関連性についても意見を述べることができる。しかし、犯罪に起因するか否かについての判断を行う者は、医師ではなく、検視を行う司法警察員である。司法警察員は、医師の意見を参酌しなければならないことは言うまでもないが、これに拘束されるものではないとされている(35)。

我が国の検死制度-現状と課題

中根憲一は、警察官が行う代行検視において「医師の立会いを省略することは許されない」と記している。

現実として、医師による検視・死体見分の立会は行われていない

中根憲一の文献を否定することになるが、少なくとも東京23区内での検視・死体見分において、医師の立会は行われていない。それは会計書類に検視・死体見分の立会い謝金の支出がないことから立証できる。ただし、証拠は、現在、申請段階にあるので、届いた後に追記する。

医師の立会いは行われていないということは、少なくとも東京23区内における検視と死体見分は、警察官によって判断されている。

三浦春馬氏のケースにおいては、「警察が自殺と事件の両面から調べる」と報道されことから、三浦氏の遺体が変死体として扱われたことが予想できる。その後、事件としての報道がなかったことから、『検視』で「犯罪性なし」との判断がなされたはずだ。

芦名星氏と竹内結子氏のケースにおいては、自殺を決め付けるばかりで、犯罪性はいっさい報道されなかった。これは、前述した厚労省の「お願い」が影響しているのだろう。ふたりが非犯罪死として扱われたのか、三浦氏と同じく変死体として扱われたのかについても、報道されていない。いずれにしろ、ふたりの死体に対し、検視または死体見分にて、警察官が「犯罪性なし」を判断したことに変わりはない。

検視の立会いと検案が実務レベルでごっちゃにされていることを示す文書

警察庁の担当者の次の発言が議事録に残っている。

警察庁(オブザーバー)
基本的には、先ほど池田先生もおっしゃられましたけれども、通常いま私どもは犯罪死見逃し防止の観点からの死因究明では検視を行っております。その際に、通常は医師のご理解をいただいて、検案医の問題もこちらでも提起されておられましたけれども、検案医の方に医学的な診断をしていただいて、当然検案書の作成も含め、警察の医学的知識の足りない部分をご判断いただいているところがありますが、性格的にはそれと同じように、一貫として位置づけることができるということですね。

第7回死因究明に資する死亡時画像診断の活用に関する検討会議事録

警察庁(オブザーバー)は、警察庁課検死指導室の担当者である。氏名は記されていないが、部署名は検視を指導する立場にあることを示している。

その内容は、検案(=死体検案書作成)のために呼んだ医師が、検視(=犯罪性の判断)における医学的な診断をしているかのような言い方となっている。

警察庁課検死指導室の担当者が、専門家の集まる検討会で検案と検視をごっちゃにしているのだから、現場での手順がどのような手順でなされているかも推し量ることができる。

警察庁の資料より抜粋
「警察における死因究明等の推進」の図表(警察庁

つまり、検視と死体検案に医師の立会いは行われていない。しかるに警察は、検案に呼ばれた医師が検視に医学的な判断を添えたかのような詭弁を漫然とおこなっているのである。

警視庁が決して譲らない屁理屈

取材すると、警視庁は「東京都監察医務院の監察医は、検案の前に検視立会を行っている」と主張し、決して譲らない。しかし、東京都監察医務院に聞けば、「検視立会いは行っていない」と二言返事で答えてくれる。根拠法も予算の出所も違うのだから当然だ。

詳細は、三浦春馬の死が万人の生に繋がる可能性23区内で検視に医師の立会がないことを示す文書を請求を参照ください。

メディアの決め付け報道の根源は警察との癒着

事実上の報道統制

大メディアの記者は、警察と「良い関係」を築き、いち早く情報をもらうことを重んじてきた。また、警察をネタ元とする情報は、社内で信頼され、社外で信用される。そのなかでも、芸能人に関連するネタは、楽して視聴率のとれるおいしいネタの筆頭だ。

認知数を減らせば、検挙率は上がる

一方、警察は、「犯罪の受付」段階において、世間が大騒ぎする事案さえ、「事件性(犯罪性)なし」で一蹴している。解決が困難な事件の認知数を減らすことで、検挙率を維持できるからだろう。そうして、いくらでも検挙可能で、莫大な利権につながる交通事案ばかりをせっせと処理している。

死因究明制度の構造的な欠陥

ここから、専門家らが死因究明の問題点を指摘する箇所をいくつか引用したい。

警察で取り扱う異常死体のうち,およそ9割は,解剖などの検査を経ずに外表検査を中心とした所見のみで,検案時に不確実な死因判断が行われ処理されている。そのため不確実な死因判断が犯罪の見落としにつながっている可能性がある。また,犯罪性がないと判断された死体については,十分に死因究明が行われているとは言い難い。
わが国の死因究明制度はきわめて未整備である,あるいは構造的に欠陥があると指摘せざるを得ない。

「日本の死因究明制度の構築を目指して」(2009日本法医学会死因究明の在り方に関する検討委員会)

わが国の死因究明制度は、あくまでも警察による犯罪性の有無という観点から成り立っているため、犯罪性がないか、または当初極めて低いとみなされた事例については詳細な解剖がほとんど行われていないという決定的な欠点を有しているのである。されに言えば、当初検視時に行われる医師による死体検案についても、諸外国のようにすべてを法医学の専門医が行うことにはなっていないため、後述するように全死亡者数あたりの以上死体死亡率はかなりに低値にとどまっている。このことは裏を返せば、本来は「死因不詳」とすべきところを、多くが「心不全」「急性心機能不全」などという以下元な診断で処理されてしまっていることを示しているのである。

「日本の死因究明制度の構築を目指して」(2009日本法医学会死因究明の在り方に関する検討委員会)

調査法解剖と行政解剖の明確な区別をしない限り,行政解剖の維持はますます困難になってくることが推察される。その一因は,わが国の死因究明制度が警察中心に運用されており,犯罪捜査に偏した死因究明が行われているためである。たとえ,救急や小児科の医師あるいは警察嘱託医が死因を明らかにするためには解剖が必要と考えても,警察が解剖不要と決めれば医師には解剖や諸検査を指示する権限はない。行政解剖の場合は,本来知事部局がその権限を持っているはずだが,それを実際に行使しているところは少数に留まり,代わりに警察の意思が解剖実施の可否に大きく影響を与えている。

死因・身元調査法施行の解剖制度への影響に関する考察(2017年千葉大学)

日本法医学会に「欠陥がある」とまで言わしめた死因究明制度は、改善されたのだろうか。北九州連続監禁殺人事件が発覚したあとにこの提言が作られ、そして死因究明二法が施行された。

しかしながら、犯罪死の見落としが大量殺人につながったかのように見える事件は、その後にも続いている。尼崎連続変死事件では、警察が、いくつもの不審死を見逃しただけでなく、被害者とその親族、近隣住民など、合計約50件もの通報や相談を受けたにもかかわらず、「事件なし」と判断したため、悲惨な状況が25年も続いてしまっている。

また、鳥取連続不審死事件首都圏連続不審死事件は、事件が発覚しないことを見越しての連続殺人に見える。

そして、大口病院連続点滴中毒死事件川崎老人ホーム連続殺人事件は、救急救命士と看護師という死後処理事務の現場をよく知る職業人による連続殺人である。

これらの連続殺人事件の傾向を見る限り、死因究明の問題は何も解消されていないと言わざるを得ない。それどころか、以前よりさらに悪い状態に陥っているのではないだろうか。

死因究明の推進を無にする警察ルート

偽装殺人の頻発を受け、専門家らは死因究明に対する課題を整理し、2012年に死因究明二法(警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律と死因究明等の推進に関する法律)が成立した。死因究明二法は2年間の時限立法であっため、2014年には、死因究明等推進計画が制定された。さらに2019年6月には、死因究明等推進基本法が可決された。これは、2020年4月1日から施行されている。

死因究明等推進計画は、第一回目の検討会は、三浦春馬氏の死亡から2週後の7月31日に開かれた。第2回目は、芦名星氏の死亡が報道される3日前の9月11日に開かれている。

死因究明等推進計画を主導するのは、厚労省である。厚労省の領域で、いくら解剖率を上げたり、死因究明の態勢を整えたとしても、効果は限定的なものとなるだろう。なぜなら、警察がすり抜けるルート(下図赤線のルート)を持っているからだ。しかも、分岐点となる死体見分と検視は、捜査上の理由や刑事訴訟法第47条が盾にされるので、遺族さえ、その内容を知ることは困難だ。

もし、竹内結子らの死が、CIAなどの国際諜報機関、フリーメイソンやイルミナティといった秘密結社、あるいは反社会勢力の陰謀だったとしても、警察が「犯罪性なし」を判断する直接の理由にはならない。仮に、警察と闇組織の間に密約があり、警察が偽装殺人をスルーさせる必要があったとしても、立証が不可能なので考えないものとする。そうすると、警察が偽装殺人をスルーさせる動機として、残る可能性は、広報上の理由だ。

認知数を減らせば、検挙率は上がる

次の図表に示す通り、殺人事件の検挙率は、統計が開始されてからずっと、ほぼ100%となっている。

死体の表面を視た(検視した)だけで安易に自殺や事故を判断することで、殺人事件の分母を減らし、検挙率100%をアピールしてきたのである。

警察発表による殺人事件の認知件数と検挙率の推移

分母の増加を容認すると、これまでの検挙率100%が崩れ、「警察の自画自賛はいったい何だったんだ!?」という、警察にとって好ましくない批判が発生してしまう。

警察が真実を隠す理由

上の表のうち、黄色の棒グラフと赤色の折れ線グラフは、徐々に現実に近づける為政者的の細工を想定したうえで作成した。誇張されているように感じる人がいるかもしれないが、右端の棒グラフの示す殺人事件の件数6000件は、かなり控え目に書いた。殺人天国に示した通り、殺人事件の件数は、1万件を超えても不思議はない。

警察の縦割り意識が死因究明を遠ざける

死因究明が必要な事案は、医療(厚生労働省)と犯罪捜査(警察庁)との間に発生する。そして、日本の死因究明制度が整理されていないのは、厚生労働省と警察庁の『縦割り』による弊害である。

医療従事者(厚生労働省の分野)のアクション

連続偽装殺人が頻発したことなどから、2008年に日本法医学会は「日本法医学会死因究明の在り方に関する検討委員会」とワーキンググループを発足させ、翌年1月に「日本型の死因究明制度の構築を目指して」を提言した。そこから、犯罪死を見逃しを防止するために、いくつもの研究会や協議会が設置され、検討が行われた。

警察庁のアクション(羊頭狗肉の検視官)

法医学者らが死因究明制度の見直しを進めようとするなか、警察庁は、2010年に「犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度の在り方について」、2012年に「警察における死因究明等の推進」といった研究や報告を公表した。

それら2つの書類はもちろん、ことあるごとに、警察庁がアピールしているのは『検視官』の存在である。警察官(司法警察職員)に法医学を学ばせて、検視に臨場させることで、犯罪死の見逃し防止に資することを目的としているようだ。

東京23区において、検視に医師の立会がされなくなったのは、警察が、医師に代わる役割を検視官にさせようと、考えているからだろう。

三浦春馬氏、芦名星氏、竹内結子氏も、医師ではなく、検視官が検視または死体見分を行ったのだろう。そして、彼らの自殺を判断したのも、おそらく検視官なのだろう。

検視官が臨場しようが臨場しまいが、死後CTを撮ったのか、薬物検査をしたのか、どうせ何も報道されることはない。それどころか、検視や死体見分の内容は、遺族にさえ明かされることはない。もし2万人が再捜査を求める署名を提出しても、警察は受け取りさえしない。

三浦氏の死後、専門家の集まる検討会での警察の報告

警察庁の図表
200警察庁が死因究明等推進計画検討会に提出した資料に記された図表

芦名星氏の死亡が報道される3日前の9月11日、死因究明等推進基本法施行後2回目となる、第2回死因究明等推進計画検討会が開催された。

厚生労働省 > 死因究明等推進本部について > 第2回死因究明等推進計画検討会 >資料6 警察庁資料

警察庁の資料には、右の図表があるが、そこに検視への医師の立会いの記載はない。そして、2ページ目の「犯罪死見逃し事案の絶無を期すための取組」に記されいるのは検視官の臨場率が向上していることをはじめ、7項目のうち、以下に示す上位の5項目は、医師に頼らず警察が独自に行っている施策をアピールするものだ。

犯罪死見逃し事案の絶無を期すための取組

警察における死体取扱数 令和元年:167,808体(我が国の死者数の約12%)

検視官の臨場
臨場率 平成20年:14.1% → 令和元年:81.3% 臨場率は向上しており、引き続き、的確な臨場を推進
検視官が臨場できない場合の補完措置(検視支援装置の整備の推進)
検視支援装置について、令和2年2月現在、22都府県に整備済み 令和3年度に、さらに2県において予算要求予定であり、引き続き、同装置の整備を推進
検視官及び検視官補助者に対する教育訓練の充実
令和元年度は法医専門研究科(検視官等)を120名、検視実務専科(補助者等)を140名が受講 引き続き、検視官等に対する教育訓練を推進
薬毒物検査の徹底
令和元年は、薬毒物検査を151,787件(警察における死体取扱数の90.5%)実施 引き続き、必要性が認められる死体に対し、薬毒物検査を徹底
死亡時画像診断の積極的な実施
令和元年は、死亡時画像診断を13,981件(警察における死体取扱数の8.3% )実施 引き続き、必要性が認められる死体に対し、死亡時画像診断を積極的に実施
必要な解剖の確実な実施
解剖率 平成20年:9.7% → 令和元年:11.5% 引き続き、必要な解剖の確実な実施を推進
身元確認の実施
身元不明死体等のDNA型記録について整理・保管・対照する仕組みを構築し、平成27年4月から運用開始 日本歯科医師会との協議を経て、歯科診療記録の照会要領のモデル案を作成するなど、迅速な歯科所見情報の 採取・照合が可能となるよう、平素からの所要の準備の推進

犯罪死の見逃し防止という課題に対し、検視官が、有効であるのかどうかについて、ここでは触れない。明白なのは、医療と犯罪捜査の狭間に発生する問題に対し、警察が『縦割り』の内側、つまり警察の領域内だけで、それを処理しようとしていることだ。

それから、「組織の意向」が「(検視官の)科学的な判断」に影響を与えようとした場合に、「科学的な判断」が優先される補償が何もないことを強調したい。

厳格な階級制度の下で、軍隊のようなトップダウンが行われる警察組織において、「組織の意向」を背景にした上級警察官からの圧力に耐え、正義を貫く警察官がどれほどいるだろうか。

ついでに書くと、警察官の平均年収は、地方公務員のなかで最も高い。その一方、警察官が警察を辞めて再就職をする場合、警察官に民間企業でアピールできるキャリアはない。それゆえ、組織の力学が優先する、と考える方が自然だ。

さらについでを足すと、表面的には有効に見えて、実は有効でないものほどタチたちの悪いものはない。警察が民主的な意見に耳をふさいでいるのは、表面的には有効に見える機能で粉飾しているからだ。(詳細は鴨のデコイをクリック)

警察任せでいいのか?

1999年から2000年にかけて、不祥事が多発し、警察の信頼は地に落ちた。信頼を回復させるために警察刷新会議が発足し、「警察刷新に関する緊急提言」がまとめられた。

提言は、最初の項「第1 問題の所在と刷新の方向性」を次のように書き出している。

今日の警察の不祥事の問題点や原因を探り、解決の方向性と処方箋を考えるには、まず、我が国の警察の持つ問題点を解明しなければならない。

警察刷新に関する緊急提言

そして、最初の段落「1 閉鎖性の危惧」に次を記した。

犯罪捜査の秘匿性を強調するあまり、警察行政が閉鎖的になるとともに、本来公開すべき情報が公開されないおそれがある。

警察刷新に関する緊急提言

警察刷新会議の指摘した警察の体質の問題は、何もかわっていない。

そして、著名人らの連続不審死に対し、警察がいったい何を根拠に「犯罪性なし」を判断したのか、一切の情報が公開されることはない。「犯罪性なし」とされたにもかかわらず、犯罪性を理由に、情報が秘匿されていることになる。

このように、警察の隠蔽体質が何も変わらぬ一方、警察が報道、とりわけテレビをコントロールできる環境は、次第に整っていった

報道機関との癒着が死因究明をさらに遠ざける

三浦春馬・芦名星・竹内結子、共有歴のある3人が、自宅クロゼットで首吊り自殺を図ったことに対し、犯罪性を想像しない方がおかしい。まるで同一犯がシグナルを残したかのようだ。しかも、3人とも自殺に至る動機もあいまいで、芦名星氏と竹内結子氏においては、当初より遺書もない。

「捜査関係者は自殺とみている」と報道されるだけならまだしも、どの局も他殺を疑うことはなく、共演者の誰一人、自殺への疑問を示さない状況は不気味だ。

叶わない犯罪死の見逃し防止

以上のとおり、法医学者らが10年の歳月をかけて整備を進めた死因究明制度は、期待された効果を得られそうにない。そのことは、状況証拠に他殺の可能性がある著名人らの連続不審死に対し、警察がことごとく「犯罪性なし」を判断し、報道が「自殺か」と決め付け速報し、さらに自殺を刷り込むかのような報道ばかりが行なわれたことから、誰もが認めざるを得ないはずだ。

警察の所業
警察が「犯罪性なし」が判断した科学的根拠が一切の添えられないだけでなく、三浦氏のマネージャーの通報を受けた警察官が三浦氏の部屋に入った時間をはじめ、死亡の状況を示す基本的な事実さえ公表されないことは、警察が犯罪隠しに加担していることさえも疑われて仕方がないだろう。これは刑訴法47条を盾にしてきた捜査関係者からは戯言にしか見えないはずだ。しかし、日本の死因究明制度の問題と海外に学ぶ必要性を認める者たちにとっては、警察が公表して当たり前の情報である。犯罪死見落とし防止を、警察任せにするのでなく、民主的にチェックするためにも必要なことである。
マスメディアの所業
三浦氏の後、芦名星氏、竹内結子氏が続く連続不自然死に対して、マスメディアは、模倣自殺防止対策を傘にした報道統制を実施した。すべてのマスメディアが、模倣自殺防止対策を盾にして、死亡状況を伏せたため、犯罪死見逃しの問題がまったく見えなくなった。そして、死亡情報を伏せながらも「自殺か」と決め付け報道する状況は、芦名星氏の段階でおおきな違和感があった。竹内結子氏の段階においては、多くの人たちが『尋常ならざる事態』を感じたはずだ。
発表報道と煽情報道

警察の縦割り意識と捜査の秘匿性に乗じた情報隠しが、犯罪の見逃し防止の邪魔をし、さらには、警察となれ合うマスメディア(報道機関)が、国民の疑問を代弁する作業をしなくなっているとしたら、犯罪死の見逃し防止など望むべくもないだろう。

そして、真相の断片を知る者も、自分が自殺偽装によって暗殺されることに怯えて、知り得たことを封印することになるのだろう。

芦名星氏の死亡が報道される3日前に、第2回死因究明等推進計画検討会で警察庁が発表した「犯罪死見逃し事案の絶無を期すための取組」の”絶無”と言う修飾が、白々しく輝いている。

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執筆者プロフィール

野村 一也
ライター
 創世カウンシル代表
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著作権について

竹内結子らの不自然死が事件にならない理由” に対して12件のコメントがあります。

  1. 警察官 より:

    私、警察官です。
    色々と書かれてますが、変死体と犯罪死体、非犯罪死体の区分とか、もろもろ、間違ってます。説明するの面倒なので書きませんが、ちゃんと警察で聞く等して、ちゃんとした事を書いて頂きたいと思います。

    1. 野村 より:

      変死体と犯罪死体、非犯罪死体の区分は、間違えようがありませんが…

    2. webpbi より:

      前のコメントに少し付け加えます。
      死因究明の問題は、警察(警察庁)と医師(厚労省)の縦割り行政の狭間に発生します。そして、それを横断的に記した文献は、多くはありません。
      死因究明会議は、厚労省が主導しているので、厚労省の所管する法律に偏っています。同様に刑事司法サイドが著した文献は、刑事司法分野に偏っています。
      一方、中根憲一の「我が国の検死制度-現状と課題-」は、死因究明を横断的に記した数少ない文献です。私は、変死体と犯罪死体、非犯罪死体の区分は、中根憲一の文献を全面的に引用しています。私個人の考えは含まれていません。
      それから、警察にも取材しましたが、呆れる対応でした。YouTubeに記録があるので、参照してください。
      https://www.youtube.com/watch?v=TAot3XBTnXM&t=233s

    3. webpbi より:

      文献や法令の手引きでは、死体で発見されたケースで書かれることがほとんどです。三浦春馬氏のように、病院に救急搬送されて病院で死亡するケースに、それを当てはめようとすると、無理が発生することに気付きました。
      そこで、次の記事では、死体で発見されたケースと、病院に救急搬送されて病院で死亡するケースを別々のフローチャートにしたので参照ください。
      https://protest.web-pbi.com/unnatural/%e5%8f%af%e8%83%bd%e6%80%a7

    4. 野村 一也 より:

      図表をさらに変更しました。

      1. 調査法解剖の位置を修正
      2. 死体で発見された場合と病院に搬送された場合の2つに分けていたが、一つにまとめた。
  2. 北條愛 より:

    真実を隠す日本国はおかしいと私は思います。

    1. 野村一也 より:

      おかしいことをおかしいと言えない状況は、もっとおかしいと思います。

  3. セキケイスケ より:

    竹内結子さんの場合自殺と決めつけることは故人に対して失礼です。中林大樹は2人の子供を育児しなければならない。高市早苗議員にお願いして国会召集で竹内結子さんの親権者と今後の未来を審議して欲しいです。高市早苗議員は木村花の誹謗中傷による自殺で母親が国会に行って誹謗中傷した人の犯人捜しをしています。竹内結子が亡くなってから子供の未来がすべて奪われてしまいました。息子の芸能界入りが絶望になりました。養育費なども中林大樹さんが支払いしなければならない。裁判を開いて竹内結子の事件を解決して欲しいです。

  4. 張寧 より:

    頑張って格闘続けて下さい、勝利する迄頑張らないと、犯人が狂って来るから、世間が困る😓

  5. ユユハ より:

    ただ真相を知りたい。裏の何かがあるならそういって、芸能人の自殺は止めないといけない。神田さんが亡くなってしまって、ますます怪しまれていくのだろうけど、連続して芸能人の方が亡くなる(自殺行為で)のは、疑問は多くある。
     その現場を見れない分、情報をいろんなところから集めなければならない。読者からしたら、ただただ正しい情報が欲しい。真相が知りたい。
     自殺なら仕方がない。他殺の可能性があるなら、まずは疑って、疑問を解決していけばいい。何もせず、『過去にもそんなことがあったよね』的な感じで終わらせるのは良くない。
     正しい行動をしてくれる方、待っています。

    1. 野村 一也 より:

      神田沙也加さんが亡くなった札幌なら、車で2時間なので、取材しました。第一段階として「神田沙也加の死亡報道に漂う他殺の可能性」を公開しました。よかったら、読んでください。
      沙也加さんの場合は、現場がホテルなので、情報収集が可能でした。自宅で亡くなった場合は、警察と関係者しか情報に触れることができないので、警察さえ丸め込めるなら、何でもできてしまうことを実感します。
      芦名星さんと竹内結子さんのケースは、まったくのお手上げです。情報のある三浦春馬さんと神田沙也加さんのケースは、できることがまだあるので、もう少しだけがんばってみようと考えています。

  6. 餃子の王将 より:

    とても鋭い分析、感服いたしました。あなたのような方が警察幹部ならよかったです
    三浦春馬 みうらはるま
    芦名星  あしなせい
    藤木孝  ふじきたかし
    竹内結子 たけうちゆうこ
    どうですか?何か文章が見えてきませんか?グリモリ事件の犯行声明みたいの
    これは連続殺人なんですよ。三浦春馬の共演者とホリプロに関係する人物による
    犯人まで知っていますがここには書けません。メアドも書けません

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