組織犯罪が野放しの日本
旧統一教会に対する解散請求の可否において、「組織犯罪」の定義が問題となっている。しかし、霊感商法、悪徳商法、など、大量の外交員を動員しての組織犯罪は、いつも被害が甚大となるまで認知すらされていない。
この記事は、前半に問題組織に潜入取材した内容。後半では、組織犯罪を追及しない社会システムの問題点を指摘する。
- 日本の組織では、法律より組織のルールが優先される傾向が極めて強い。
- 各被害毎の詐欺の立証が困難であることから、警察が被害届の受け取りを渋っている。その結果、組織的な犯罪行為の多くは、認知すらされていない。
- 組織が関与したことの立証が困難であることから、組織的であることを容易に隠し通せる。
- 消費者相談センターが組織的な犯罪行為の抑止に機能していない。
- 労働基準監督署が労働者の告発を遮断している。
- 刑事司法と行政が連携していないことが、水面下の犯罪認知を困難にしている。
研修施設に送られる集団
渋谷・宮下公園前、夜の7時、そのバスは、全国から集まった50人ほどの「幹部候補生」を乗せ、茨城県にある研修施設へと出発した。バスに乗っているのは、高収入をうたい文句とした求人に応募し、採用された者たちだ。
問題組織への潜入
1999年、ぼくは悪徳商法が疑われる会社への潜入取材をおこなった。実のところ、潜入取材は「心の支え」に過ぎず、就職難で苦しんだ挙句の選択だ。
当時、札幌に住んでいたぼくは、7年勤めた会社がくれた退職金を使い果たしてしまった。事情により引っ越す必要があり、札幌に居ながら首都圏の仕事を探していた。仕事が決まっていないと部屋を貸してもらえないので、そうするしかなかった。
1999年は、後に就職氷河期と言われる時代だ。その当時は、活字をプリントアウトした履歴書が許されなかった。ぼくは、何十回も履歴書を手書きし、郵送を繰り返したが、面接の機会さえ得られなかった。そうして、タイムリミットが迫り、背に腹は代えられないと察したぼくは、怪しい会社に応募することにした。
「幹部候補生募集。月収30万円以上」
その会社は、東証に株式を店頭公開(翌年、一部上場)しており、全国に100を超える支店を持っていた。本社を渋谷区神宮前6丁目に置き、全国で害虫駆除の訪問販売を行っていた。仕事の内容で会社を区別するのは良くないことであるが、誰もが「怪しい」と思う業態であった。
無職では部屋を借りられないことから苦し紛れの応募であったが、「悪徳企業への潜入取材」を心の拠り所として、履歴書を送った。面接に臨むと、あっさりと採用された。余程の問題人間でない限り、採用されるのだろうと思った。ともあれ、就職の目処がついたので、ぼくは、ネットで部屋を探し、横浜の賃貸アパートを申し込んだ。そして、部屋をかたずけ、大洗行きのフェリーに乗った。
研修施設での訓練
アパートにクルマを置いて、電車で渋谷に向かい、渋谷から研修施設『無現』に向かうバスに乗った。その施設は、茨城県守屋町郊外のさびしい場所にあった。研修参加者のひとりは、その施設がオウム真理教のサティアンのようだと茶化した。
当時は、オウム真理教の報道が落ち着いたころで、TBSのバラエティ番組『ガチンコ!』が人気だった。研修参加者の多くは、その番組の企画「ファイトクラブ」や「ラーメン道」での修行を連想していたはずだ。
後に気づいたことだが、ぼくが潜入した会社の研修は、「地獄の訓練」で知られる管理者養成学校のコピーだ。管理者養成学校は、アメリカ軍のブートキャンプ(新兵教育施設)における基礎訓練を模しているようだ。そして、ブートキャンプの内容は、映画『フルメタル・ジャケット』(スタンリー・キューブリック監督)の前半で見ることができる。
フルメタル・ジャケット(原題:Full Metal Jacket)
主人公の青年ジョーカーら新兵と、教官ハートマン軍曹との対立が映画前半の主軸。ハートマン軍曹は、訓練が厳しいだけでなく、叱責と罵倒で新兵ら人格を破壊し、連帯責任による集団操作を行う。
新兵のひとりレナードは、過酷な訓練で精神に変調をきたし、卒業式の夜にハートマンを射殺した後、自ら命を絶ってしまう。
米兵の研修と、ぼくが入社した会社の研修では、当然、研修の内容が違う。研修後の配属先も、戦場とセールス現場との違いがある。でも、参加者に影響を与える訓練ストーリーは、概ね同じだ。
同期入社した者同士に競争をあおる組織運営の手法は、官民問わず多くの組織が導入している。入社直後の厳しい研修によって仲間意識を植え付けることは、組織内で直面する苦難を共に乗り越える活力を追加する。
ついでに書くと、ぼくはアメリカ製の医療機器を販売する会社が主催するブートキャンプに参加したことがある。各国で採用された新入社員は、入社直後の6週間、本社近くのホテルに缶詰め状態でセールスの基礎を学ぶ。中間試験で落伍すると送還され、採用も白紙撤回されるという緊張感あふれる研修だった。ただし、次に示す人格破壊と連帯責任の教育はなかった。
人格破壊による上命下服
米軍のブートキャンプに共通する訓練。個人の尊厳(人権)を制約し、訓練生を組織の歯車して動かすことを目的とする。個人のモラルや社会の原理原則より、上司の命令を優先するよう叩き込まれる。
- 教官には、理由を問わず、訓練生を辞めさせる権限(生殺与奪権)が与えられる。
- 教官は、訓練生の人格を破壊する言動を伴った訓練を行う。
- 訓練生は、命令に従うだけのロボットと化す。
この訓練は、軍隊を統制するためには必須の訓練。生死を分ける任務を指揮するには、前線の兵士を服従させることが必要となるからだ。絶対的な階級制度が、軍隊の上命下服(トップダウン)を支える。
厳格な階級制度は、米軍のみならず、日本の自衛隊や警察組織にも通じている。それどころか、個人名より組織名と役職で呼び合う日本の組織風土は、人権より組織の指揮命令が優先されるバックグラウンドとなっている。
「組織が決めた」「上司の指示があった」
法令や道徳に基づく個人の判断より、上司の命令が優先されることによって、末端の構成員は、組織への責任転嫁を常とする。
「(具体的な)指示はしていない」
末端の構成員の行為が問題となった場合、多くの組織は「その構成員が勝手にやった」と組織の関与を否定する。こうして、軍隊のための上命下服は、組織と構成員が相互に責任転嫁をし合うシステムと化すことになる。
ぼくが受けた訓練の教官は、白いシャツに黒いズボン、ブルースリーの練習着のような服装をしていた。ロボットのように姿勢がよく、表情はなかった。教官は、訓練の最初に、少しオネェがかった甲高い声で、生殺与奪の権利(訓練生を落伍させる権利)を持っていることを宣言した。人格破壊の手法は、彼が問題視した行為者に対する罵倒と叱責だった。
連帯責任
人格破壊と同様、個人より組織を重視させるための訓練。
ビジネス戦闘員の養成手順としては、やはり米軍のブートキャンプが起源だ。ただし、日本の軍隊も同様の養成手順があり、人格破壊と連帯責任が組み込まれている。そして、日本の軍隊の訓練手順と組織特性は、『体育会系』という組織形態で、現在でも多くの組織が採用している。
ぼくが受けた訓練において、訓練生は20人程度のグループに分けられ、訓練課題を競わされれた。グループの中に遅い者がいると、グループ全体が罰を受けるが、食事の時間が遅くなる程度のソフトなものだった。
一方、武器を持つ公務員たちの受ける訓練は、映画『フルメタル・ジャケット』と同等であることが伺われる。
- 自衛隊
- 2023年6月14日、自衛官候補生が指導員3名に小銃を発砲し、うち2人が死亡する事件が起きた。映画「フルメタル・ジャケット」のストーリーを連想せざるを得ない。実際の動機はさておき、自衛隊は、事実上の軍隊なのだから、米軍と同様の訓練が行われてもおかしくはない。
- 警察
- 警察学校で行われる訓練の情報は、これまで固く閉ざされていた。2017年、警察学校内でのイジメを苦に退職した著者ハルオサンによるマンガ「警察官をクビになった話」がweb上で公開され、反響を呼んだ。
米兵は、その多くが2年程度で兵役を終える。一方、日本の警察官と自衛官は、そのほとんどが一生そこで働くつもりで組織に『就職』する。転職という選択肢を持たぬまま、厳格な階級制度と徹底した上命下服が、情けない性犯罪やパワハラなど、人権意識の低い行為が繰り返される原因だと疑わざるを得ない。ブラックボックスの中だから、そのほとんどが隠蔽されているだけなのだろう。
「上司への異論は、組織への反逆とみなされる」
退職警察官の暴露本に書いてあったこの文は、過剰ではないのかもしれない。
礼儀作法
初めて訪問する見込み客に、自分を信用させる技術を叩きこむため、実態のない金投資で多数の被害者を出した豊田商事は、礼儀作法作法を徹底的に訓練した。
僕が入社した害虫駆除会社も同じだった。お辞儀の仕方にはじまり、靴の脱ぎ方ほか、相手に決して粗相を感じさることなく、礼儀正しい好青年を演じる技術を叩きこまれた。
- 表情の作り方
- 足を少し広げてどっしり構え、手を後ろで組み、「あいうえお」を発声する。これは、毎日の訓練の朝一番に行われた。口が裂けるほど大きく開き、喉が枯れるほどの大声を出す。そうして、顔の表情筋を鍛え、笑顔の作りだすのである。
- お辞儀の仕方
- お辞儀の角度には、15度45度90度の3パターンがあり、その使い分け方法が教育された。
- お辞儀(礼)と声のタイミングには、先声後礼と、先礼後声の2パターンがある。礼と声を同時にすることはない。先声後礼を標準として、教えられた。
- それは、昭和の末期の時代にも時代おくれの作法であった。教官は、時代おくれの作法を律儀に行うことが、高齢者に好感を抱かせるのだと教えた。
- 礼儀正しさの演出
- 玄関を入ったときの靴の揃え型、椅子から離れるときに椅子を元に位置に戻す作法は、無意識にできるようになるまで、叱責を伴う教育を受ける。これは、金投資で社長が刺殺された豊田商事の教育方法と同じだった。
悪徳商法の現場
研修の中盤ころまでに、ぼくは、営業ではなく、メンテナンスの職を希望することを決めていた。営業をしたくなかったからだ。そして、ぼくは横浜支店のメンテナンス職として配属されることになった。
営業部隊が新規客を獲得するために行う戦術は、ローラー作戦だ。ターゲットエリアの家をしらみ潰しに訪問し、営業をかける。
「近所で工事をするので、その挨拶に伺いました」
これが訪問販売であることをカモフラージュするための口実だった。警戒を解くために、お辞儀の仕方や表情の作り方とといった訓練で身に着けた作法が役に立つ。
「工事のついでだから、無料で家を点検しましょうか?」
虚偽の訪問口実で警戒心を緩めさせた次は、「点検は無料」で家に入り込む余地をつくる。この段階で、家族構成と建築関係の親族がいないことを確認する。後にクレームを受ける可能性を減らすためだ。建築関係者がいる家が営業の対象外となるのは、建築知識のある者から見られると、商品にその価値がないことがバレるからだ。
「本当に無料?」
こう返す人は、悪徳営業の手中に嵌ったも同然だ。脱いだ靴をきれいに揃え、家を汚さない配慮を見せることで安心感を与えながら、床下に潜り込む。そして、虫の死骸や何か汚いものを集め、報告する。
「大変なことになってます!今すぐ何かした方がいいです。」
大げさに不安をあおるのは、弱者をターゲットにした悪徳商法の基本的な技術だ。これは、『恐怖に訴える論証』として、政治的プロパガンダでもよく使われる。
相手に恐怖と先入観を植えつけることで、自身の考えを支持させようとする詭弁の一種。マーケティングや政治でよく見られる手法である。特に日本の警察は、この手法を濫用している。詳細は正義も希望もない犯罪放置国家を参照ください。
恐怖からの解放を、恐怖を煽った人に求めるわけだ。傍(はた)から見ると、愚かな行為でも、恐怖を煽られていることに気付かず、その場の情動で行動する人は少なくない。
自作自演(マッチポンプ)による詐欺
端的に言って、私のいた会社は、組織的に詐欺を行っていた。私は、内情を知っているから、「詐欺」を断定している。しかし、セールスをされた側が「詐欺」を立証することは容易ではない。
詐欺の立証は極めて困難
不安をあおって、その場で見積りを書く。そして、契約を迫る段階で、礼儀正しさは一変する。そういえば、マニュアルには「慈善事業ではないんで~」というフレーズがあった。「点検は無料」と言って家に上がり込み、火を焚きつけたら、態度を一変させるわけだ。確かに「点検は無料」なのだが、上り込んだら最後、高額商品を契約するまで帰らない。
クロージングに一律のストーリーはない。安心させたり、強く迫ったりして、契約を促す。
強引なクロージングをする人もいるが、相手が自分自身の意思で契約したことを危うくする行為だけはご法度だ。詐欺罪に比較すれば、立証が容易な私印不正使用罪や強要罪を成立させないためだ。それだけに注意すれば、警察に駆け込まれても、問題にはならない。
悪徳商法に対する刑事司法と行政の無策
被害者「お金をだまし取られたんです・・・」
警察官「でも、契約したのはあなたでしょ?」
自分自身の意思で契約書に押印した限りにおいて、警察官はこの一言であしらおうとする。告訴はおろか、被害届さえ書こうとしないので、統計上の認知すらされない。
プリンシプルのない日本
被害者が消費者センターに相談したとしても、被害者の言い分を聞くだけだ。被害者救済制度は存在せず、ただ、センターの統計にカウントされるに過ぎない。認知した問題に対し、積極的なアクションは行われないので、抑止力もない。
消費者センターと似たような有名無実組織として労働基準監督署がある。一見、労働者の雇用主に対するクレームを解決してくれそうに見えるが、そうではない。
労働基準監督官は、逮捕権を持ち、強制捜査も可能であるが、苦情を受けて企業に行くのは、常に事前通知の後だ。企業は、事前対応が可能なので、苦情を裏付ける情報を隠すことができる。どちらかというと、企業側に立つ組織であると言わざるを得ない。
総務省の行政評価局(旧行政監察局)という組織も同類だ。行政への苦情を受け付けるものの、聞いたことを、苦情の対象機関に届けるだけだ。対象機関に対する強制力はない。
何度も餌食になる被害者
悪徳商法の被害にあう人は、同じような被害に何度もあう傾向がある。だから、その会社では、1度契約をした家に再点検の名目でもぐりこみ、同類の商品をさらに売りつけていた。
ぼくは、再点検で2度目の施工となる家の工事を手伝ったとき、床下をみて唖然とした。床を支える根太の下には、束(つか)が20cm間隔で並べられていたのである。それだけで明らかに無意味な施工だ。さらにその20cm程度の間に追加の束を入れていった。
束自体は、ホームセンターで1000円程度で売っているものだ。施工に専門的知識や技術は要らない。床下に入る覚悟があれば、誰にでもできる作業だ。それを『工事』と呼んで、高額で契約する。相談できる人がおらず、自分で床下の状況を確認することのできない人たちにとっては、不安が取り除かれることにお金を払っているのだ。ただし、その不安は、営業員があおったものである。つまり、自分で付けた火を自分で消しただけのマッチポンプだ。
「客が喜んでいるからいいんだ」
これは、営業員が自身の良心をなぐさめる唯一の方便だ。
存在してはならない会社
高齢者をターゲットにした手口
横浜支店のエースは、弱冠24歳だった。守ってあげたいくらい気弱そうな風貌と、静かなトーンでの語り口を武器とした。大げさな言い回しに代えて、淡々とした話しぶりによる高感度で、売り上げを伸ばしていた。
「孫のように振る舞うことが高齢者を操作するポイント」
現在のオレオレ詐欺の手口に通じるコツを自慢げに話す声を聞いたこともある。ぼくは、次第に世の中に存在してはならない会社があることを悟った。生活のためとはいえ、自分がその一員であることに嫌気がさした。
犯罪は示談で隠ぺい
横浜支店の支店長は、証券会社出身だった。声の大きさとトーク力で場を仕切る能力に長けた典型的な営業マンだった。彼はよく武勇伝を披露していた。その中に、ある営業員が営業にいった家で、ひとり留守番をしていたお嬢さんをレイプした話しがある。彼が言うに、そういうトラブルはたくさんあって、すべて示談でカタがつくのだそうだ。
そう聞くと、この会社が退職警官を採用しているのは、警察沙汰になろうとした場合に示談で終わらせるためなのだろうと思った。本社の社外取締役や顧問だけでなく、現場に近い部署にも、退職警官が配置されていたのである。
警察組織のレイプ事件に対する後ろ向きな姿勢は、次の記事を参照して欲しい。
警察官のレイプも示談で隠ぺい
そういえば、神奈川県警藤沢北署の巡査長が、交通違反の女性(18)に覚せい剤を提供し、それをネタに「逮捕する」と取調室に何度も呼び出し、3年間に10回以上のレイプを繰り返したとして、損害賠償請求を提訴されたことが週刊現代(1999年10月23日号)で報道されたことがある。
しかし、裁判は被害者の取り下げによって終了した。きっと被害者が示談に応じたのだろう。
そして退職
支店長は、好き嫌いが激しく、好きな部下と嫌いな部下をあからさまに区別していた。ぼくは、配属当初より、そりが合わないことを直感したので、できるだけ支店長との接触を避けた。しかし、支店長も、ぼくが気に入らなかったらしく、僕に嫌がらせをしてきた。
やがて僕は、支店長の下にいること自体が嫌になった。そして、入社から3カ月で本社に退職願いを提出した。本社には、高いコストをかけて教育した社員をフォローアップする担当者がいた。ぼくは本社に呼び出され、退職理由をしつこく聞かれた。
ぼくは、家庭の事情を理由としていたが、あまりにしつこく聞くので、支店長の嫌がらせが原因であることを告白した。すると、フォローアップの担当者は、あっさりと退職を認めてくれた。そして、支店長の嫌がらせを謝罪し、僕の将来を励ます言葉を掛けてくれた。
ついでに書くと、組織を離れる者にエールを送ることは、組織への陰口や暴露を防ぐためのセオリーである。ぼくは、そのことを、後に複数の会社を離れたときに学んだ。
悪徳商法が野放しの日本
その会社は、2004年に民事再生手続開始の申請により倒産した。倒産の引き金は、創業社長の逮捕である。逮捕は、証券取引法違反容疑によるもので、悪徳商法そのものが問題視されたのではない。つまり、最後まで、悪徳商法は問題とされなかったのである。
最盛期で200億円を超える年商を上げるほどになる間に、どれほど多くの被害者が、消費者センターや警察に相談したかは、想像に難くない。
犯罪を自ら認める犯罪組織や犯罪常習者はいない。だから、捜査機関が存在する。そして、捜査機関の存在価値は、いかに捜査するか以前に、何を捜査対象とするかにあるはずだ。しかし残念ながら、警察は、告訴・告発や被害届の受け取り拒否を乱発することによって、捜査対象を選んでいる。
『犯罪の受付』段階で、警察の利益に寄与する犯罪だけが『事件』となる。
民主的補完システムの機能不全
悪徳商法が犯罪となるのは、主に詐欺が立証されたときだ。犯罪の立証が困難だとしても、消費者の無知に付け込んで高額商品を売りつける悪徳商法は、無数に存在する。犯罪、ないし、消費者問題の認知システムに瑕疵がある、と言わざるを得ない。
組織的な詐欺や悪徳商法の被害者たちは、警察や消費者センターに訴えても、解決されないので、仕方なく、民事訴訟を起こすしかないのである。行政や警察が動くのは、弁護団による被害者の会が結成され、被害回復のための民事訴訟が全国で実施されたあとだ。
なぜ、いつも国や警察が後手なのか、考えてみよう。
タブーで守られる大組織
菊(皇室)タブー、桜(警察)タブーに並ぶ日本3大タブーのひとつとして、鶴タブーがある。もともとは、創価学会に対する報道タブーを示していた。しかし、報道タブー全般の問題を整理するために、鶴タブーの対象を少し広げてみよう。
2022年、安倍元首相が銃撃死した直後の報道において、当初、メディアは、山上徹也容疑者の動機を宗教団体への恨みなどと濁し、「(旧)統一教会」の固有名称を報道しなかった。そのことが示すのは、鶴タブーは、創価学会に限らず、規模が大きくなり、社会的影響力を持つようになった宗教法人が、報道タブーの対象になるという現実だ。
規模が大きくなると批判がタブー視される風潮は、宗教分野に限らない。一般企業においても、規模や影響力が大きくなると、タブー視される現象が見られる。
実際、影響力のある組織に対しては、数多くのタブーが存在する。芸能プロダクションや報道機関、テレビCMを出す一般企業に対するタブーには、芸能プロダクションタブー、メディアタブー、スポンサータブーなど、固有のタブーが存在する。こうした、規模や影響力が大きくなるとタブー視される現象は、鶴タブーが有力組織全般をカバーすることに繋がる。
犯罪を容認する内部構造
実際、すべての大組織は、社是社訓や不文律を持っている。それらの中には宗教性を帯びたものも少なくない。よくあるのは、創業社長の神聖化だ。そうした組織は、絶対権力を持つ者の帝国となる。そうした組織風土は、法令やモラルより、権力者の嗜好に合わせることが、暗黙のルールとなる。組織内で自分の居場所を守ろうとする者は、権力者に媚びを売り、帝国を支える。顕著な例は、ジャニーズ事務所だ。
一方、帝国に違和感をおぼえる新参者は、帝国の僕(しもべ)たちの洗礼を受けることにより、進退を迫られる。権力者の嗜好に合わせることによって、自分の居場所を守ってきた帝国の僕(しもべ)たちにとって、法令やモラルを主張する者は、目障りな存在だ。排除しなければ、自分の居場所を脅かされかねないからだ。その結果、時代おくれのベテラン(帝国の僕)たちに排除された被害者は、退職を余儀なくされる。
報道も捜査もされない有力企業の組織的犯罪
バブル経済の水面下には、霊感商法・金融商法・マルチ商法などの悪徳商法で苦しむ人たちがいた。被害の大きいふたつの被害額はひとりあたり1000万円、それを2万人を超える被害者から集めた。
- 豊田商事:被害者およそ2万7000人、被害総額は2,000億円
- ジャパンライフ:被害者2万人、被害額2000億万円
組織的犯罪組織が巨額の資金を集めるまでには、とうぜん、多くの被害者が警察に相談したり、被害届を出している。
しかし、警察が動き出すのは、いつも膨大な被害者が発生した後だ。被害者の会が結成され、民事裁判で直接争うのは、警察も行政も動かないからだ。
フィリピン政府が問題とした後、ようやく日本の警察が動き、報道された組織犯罪
実態のない金融商品で多額の被害をだしたジー・オーグループは、消費者センターに被害の報告が蓄積された後も、派手なテレビCMで被害を拡大した。そして、日本で集めた出資金でフィリピンの銀行を買収し、ジーオーグループの創業者・大神源太の名を付けバンク・オブ・オーガミに名称を変更した。しかし、フィリピン中央銀行がこの買収を認可しなかったため、2002年1月に銀行は破綻した。日本の警察が捜査をはじめたのは、フィリピンでの問題が大きく報道された後だ。つまり、司法は、日本国内での被害届や消費者センター被害報告が蓄積されようが問題視しなかったのに、フィリピン政府がその企業を問題視した後の2002年2月、ようやく捜査を始めたのである。
ハリボテの制度(後日追加)
- 経済犯罪(詐欺や汚職)を捜査しない警察
- 企業に逃げ道を与える労働基準監督署
- 企業に優しい消費者庁(内閣府)
- 対象が狭い公正取引委員会
巨悪に目を伏せ 些細な交通違反ばかりを検挙する警察
そして警察官は、処理が簡単で、ノルマの課された交通違反の取締りばかりに精を出している。
執筆者プロフィール
最新の投稿
- 2023年10月20日告訴・告発組織犯罪が野放しの日本
- 2023年8月5日汚職宗教二世とパチスロ二世
- 2023年7月2日告訴・告発正義も希望もない犯罪放置国家
- 2022年5月21日汚職ニセコの土地転がしに係る汚職疑惑を告発