争点は速度規制の合理性と取締りの妥当性
警察官が取り締まりを正当化する論拠
本件取締りに限らず、警察官が速度取締りを正当化する論拠は次の3つである。
- 速度規制は適正である。
- 取締り区間において、悲惨な事故が発生した、ないし交通事故が多発している。
- 交通事故をなくすため、ないし減らすために交通取締りを行っている。
速度違反で検挙されたドライバーやライダーは、これら3つの方便によって、規制と取締りへの不満を封殺されている。 一方、取り締まりを受けたドライバーとライダーの不満は、次のとおり。
- 速度規制に合理性がない (制限速度がおかしい)
- 取締まりに妥当性がない (安全な道路で速度取締りをするのはおかしい)
- 測定された数値ほどスピードを出したとは思えない
1と2それぞれは、取り締まる側の言い分と取り締まられる側の言い分は完全に拮抗する。これが取り締まられる側に不満を発生させる要因である。そこで、本サイトおよび本件訴訟においては、証拠を挙げて、どちらの言い分に説得力があるのかを明らかにしたい。 なお、取り締まりを受けた側の不満3は、警察の交通取り締まりに対抗できるかに記したとおり、争っても社会の利益には繋がらない。
極端に低い日本の法定速度
道路交通法施行令によって、一般道の最高速度は時速60キロメートルに規制されている。一方、海外に目を転じてヨーロッパを参照すると、ほとんどの国において、一般道の最高速度は80km/hから100km/hとなっている。80km/h未満の国は、淡路島より小さなマルタ共和国だけだ。(参照:諸外国における速度規制に関する事例 – 北海道開発土木研究所,Speed_limit – wikipedia,Touring tips, country by country – AA) 道路交通法施行令の定める時速60キロメートルという一般道の制限速度が、海外に比較して極端に低いことは明らかである。
なお、街と街の間に郊外が広がるユーロ諸国と違い、日本では街が連続しており、郊外の概念がユーロ諸国とは異なる。また、日本では、道路整備のための予算(道路特定財源)が別立となっており、高速道路だけでなく、地域高規格道路(いわゆるバイパス道路)は、ユーロ諸国の自動車専用道路以上に整備されている。
その結果、安全で立派なのに規制速度が低い道路があちらこちらにできている。そして、警察が好んで取り締まりを行うのはこうした道路であり、本件事件の発生道路も地域高規格道路での取り締まりである。
規制速度の見直し状況
「交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に関する懇談会」が開催される数年前から、警察庁は、「規制速度決定の在り方に関する調査研究」を行い、それを基に速度規制の策定に関する内規を見直し、そして2012年(H24)3月までに、速度規制に対する一定の見直しが実施されている。
以下の図は、2013年(H25)10月16日の「交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に関する懇談会」において、警察庁が提供した資料5(速度規制等ワーキンググループ検討状況中間報告資料)中ページ2に記載された図である。
1)規制速度決定の在り方に関する調査研究
2006年(H18)から2009年(H21)までの3年間に渡って、警察庁は、「規制速度決定の在り方に関する調査研究(委員長:太田勝敏東洋大学教授)」を行い、2009年(H21)4月2日にその研究結果となる「規制速度決定の在り方に関する調査研究・報告(概要・報告書要旨・報告書(以下「太田報告書」とする))」を公表した。なお、報告は、基準速度を「全国一律の基準となる速度」と定義し、道路を12区分に分けた上で、区分毎の基準速度を設定した。また、「実勢速度(85パーセンタイル速度)を基に、交通事故抑制の観点を加味した基準速度を設定」したとしている。
85パーセンタイルの評価方法については、まず、2006年(H19)に447地点で速度調査を行ったとしている。
次に上記調査結果を12区分に分類し、区分毎の85パーセンタイル速度を算出したとしている。さらに、実測値と実測値から算出した85パーセンタイル速度に数量化I類による補正を加え、さらに2007年(H20)に収集された全国509地点の速度データで検証を行ったとしている。次の図は、太田報告書のページ9に記されたものを抜粋した。
ここまでの報告において、問題なのは、速度を調査した道路の所在する都道府県や、具体的な道路名に一切触れていないことにある。都道府県ごとの規制ならさておき、全国一律に規制する根拠として統計をとるのなら、とうぜん、道路条件がよく、その結果、首都圏よりはるかに高速で、かつ、安全に車両が通行している北海道を一定の割合いで織り込むべきである。言い換えると、調査地域に走行条件の悪い道路ばかりを選べば、統計上の実測値は、操作が可能である。
次に太田報告書のページ10には、得られた85パーセンタイル速度から、基準速度を設定するにあたって、次の内容が記されている。
実勢速度として用いる85パーセンタイル速度は、悪天候や遅い車両の影響を受けない状況下で、85%のドライバーが選択する速度であり、ドライバー本位の速度であると言える。
しかしながら、日本の道路は欧米のように居住地と非居住地が明確に分かれているわけではなく、狭い国土、複雑な地形のため、ほぼ全ての道路が居住行動圏内を通っている。このような道路環境下においては、ドライバー本位の規制速度を設定した場合、交通事故が増加する恐れがある。そこで、実勢速度である85パーセンタイル速度に交通事故抑制の観点を考慮した、全国一律の規制速度の基準となる速度(以下「基準速度」という。)を導入する。
交通事故抑制の観点としては、多種多様な道路において共通して適用が可能であり、また、ドライバーの視点から容易に識別できることに着目して、市街地における事故の危険性、中央分離有無による事故の危険性および歩行者・自転車保護の観点を考慮する。
そして、次の3つを揚げて、85パーセンタイル速度から減じて、基準速度を設定することの理由としている。
-
-
- 市街地における事故の危険性
- 中央分離施設が設置されていないことによる事故の危険性
- 歩行者保護
-
そして、太田報告書のページ10には、基準速度が示されている。
この段階には多くの問題が存在する。 非市街地の4車線で中央分離のある道路に対してさえ、歩行者の存在を理由として速度を減じていることを筆頭に、結局、上限は60km/hとなっており、総合的に見ると、単に法定速度である60km/hに正当性を持たせるための引き算をしているだけの措置だといっても過言ではない。
以下、上掲の「表2-7 一般道路の基準速度」の問題点を羅列する。ただし、道路交通法上に「一般道路」という文言は存在しない。太田報告書が「一般道路」を使っているのは、意図があるのかもしれないが、何ら説明はない。以下、太田報告書のいう「一般道路」は、道路交通法および道路交通法施行令の規定する「一般道」と同じと見做し、以下、「一般道」に統一する。
道路交通法施行令の規定する「一般道」
- 高速自動車国道/「一般道」
- 首都高速湾岸線は、高速自動車国道である東名高速や東北・関越自動車道と遜色のない規格の道路である。また、湾岸の工業地帯や海の上を通っているので、騒音問題はないに等しい。市街/郊外に明確な規定がないことは先に示したので、それを除けば、首都高湾岸線の道路構造と環境は、高速自動車国道と同等である。それなのに、行政上の区分を優先して、規制の根拠とするのは、合理性に欠ける。
- 阪神高速道路の湾岸部も同じく、高速自動車国道としてではなく、一般道の法定速度60km/hから80km/hに緩和されている。しかしながら、原告の所感としては、双方とも平均速度さえ、規制速度を上回っている。太田報告書が、こうした道路を評価していないことを原告は予想するが、増加を続けるこうした恵まれた非高速自動車国道については、別の評価がなされるべきである。
- 自動車専用道路/「一般道」
- 湾岸線を除く首都高速は、自動車専用道路であるが、高速自動車国道ではない。だから、規制速度は、法定速度と同じ60km/hに規制されている。しかしながら、荒川沿いの首都高環状線(葛西JCT-堀切JCT)においては、規制速度で走行すると煽られて危険を感じるほど、規制と現実はかけ離れている。
- 道路交通法施行令の規定する法定速度が、高速自動車国道と「一般道」の2種類しか存在しないなか、高速自動車国道以外を「一般道」と看做したままの規制を続けるのなら、「一般道」に自動車専用道路の実態を反映するべきである。
- 地域高規格道路/古い設計の「一般道」
- 後に具体的に記すが、日本は他国に比較して、潤沢な道路予算をもち、他国のハイウェイ以上に整備された地域高規格道路(いわゆるバイパス道路)が、たくさん存在する。その中には、一部車両規制が行われ、限りなく自動車専用道路に近い道路もある。
- 例をあげれば、横浜新道と小田原厚木道路のような有料道路や、保土ヶ谷バイパスや新潟西バイパスは、道路交通法上において「一般道」に分類されており、速度規制のベースは60km/hである。70km/hに規制されているのは、例外措置であって、適用の実務権限は、警察にある。
太田報告書上の「一般道(路)」
捕まえるのは20km/h程度の違反
- 後に触れる「交通規制基準」の一部改正についてにおいて、プラス10km/hが定められるまでもなく、既に適用が行われているのである。しかも、横浜新道と小田原厚木道路の規制速度は、法定速度から10km/h緩和してもなお、交通実態を大きく下回っている。小田原厚木道路にいたっては、神奈川県警第二交通機動隊が覆面パトカーでの取り締まりを盛んに行うため、道路利用者の評判はすこぶる悪い。
- 太田報告書は、とうぜんこうした道路が「一般道」に含まれていること理解したうえで作成されたはずである。もし、太田報告書の地点調査において、こうした道路を織り込まれていないとしたら、それは道路ユーザーに対する欺瞞であると言わざるを得ない。
- 市街道路/郊外道路
- 道路予算が潤沢な日本において、市街地を通る地域高規格道路のなかには、全面的な立体交差を採用した道路が多数存在する。単に市街地というだけで、中央分離帯があろうが4車線以上であろうが、おかまいなしに速度を減じることは交通工学的に失当である。
- また、4車線以上で中央分離帯があれば、例外なく歩行者横断禁止にされるものである。そうした道路に対し、歩行者理由で速度を減じている。さらには、単に市街地という理由だけで、一律に速度を減じているが、市街地の定義さえなされていない。
- 路線で評価する設計速度/ピンポイントで取り締まる規制速度
- 速度道路設計に使用される設計速度は、道路の全区間、または、必要最小限に区分した長い区間に対し行われる。一方、規制速度は、ピンポイントで行われる速度取り締まりの根拠となる。同報告では、設計速度を拠り所としているが、設計速度と規制速度は、本来の使用目的がまったく異なる速度である。
- 設計速度は、道路全体または長い区間の旅行速度を目標とするものであるから、設計速度の同じ区間であっても、条件のよい区間では、それ以上の速度で安全に走行が可能である。つまり、同一区間において、もっとも走行条件の悪い区間で安全に走行できる速度であるといえる。
- 単に法定速度である60km/hに正当性を持たせるための引き算にしか見えない太田報告書の基準速度において、その正当性を設計速度に転嫁することは、おそらく、国土交通省にとって遺憾なことであろうとの思いを禁じ得ない。
- もし、基準速度を適用した結果が、ことごとく設計速度に一致しているとしたら、それはカーブなど条件の悪い区間の安全速度(設計速度)が、長い直線部においても、適用されることになっているはずだ。
以上のとおり、太田報告書は、日本の道路整備の特異性、および、道路管理者と交通管理者が別々となっていることからくる不合理を考察することなしにまとめられている。批判をおそれずにいえば、太田報告書は、道路交通法施行令例に規定された「一般道」の法定速度60km/hの維持ありきで、それを上限として減算したことをいかにも科学的な考察したかのように示したものにすぎない。つまり、結論ありきの報告だといっても過言ではない。
ちなみに、太田報告書は、国立国会図書館のインターネット資料収集保存事業(wayback machineと同等のウェブアーカイブサービスであり、本電子文書においてはアイコンとしてを付与する。)に記録された文書へのリンクとなっている。そして、太田報告書は、2009年10月26日に同事業によって保存されたものであり、そのインデックスは、同日に同事業が保存した警察庁交通局新着リストにある。
2014年(H26)1月7日時点に置いて、同日付けの警察庁交通局新着リストの並ぶほかの電子文書は、当初のURLで閲覧が可能である。しかしながら、太田報告書は、当初URL(http://www.npa.go.jp/koutsuu/kisei39/kisei20090402-3.pdf)では閲覧できなくされている。同様に、太田報告書のタイトルである「規制速度決定の在り方に関する調査研究 報告書」でGoogle検索をしてもヒットしない。また、「規制速度決定の在り方に関する調査研究検討委員会」でGoogle検索をしても、太田報告書を引用した文書ならヒットするが、太田報告書そのものはヒットしない。つまり、太田報告書は警察庁のサーバーから抹消されている。これには、警察庁が意図的に抹消したとの疑念を禁じ得ない。
2)(速度規制基準の改訂)
2009年(H21)10月29日、警察庁は、速度規制の策定基準を定めた内規「速度規制基準」を改定し、「交通規制基準」の一部改正についてを通達した。
次の表は、「交通規制基準」の一部改正についての別添第32「最高速度(区域、自動車専用道路及び高速自動車国道を除く。)」から「規制速度の決定方法」を抜粋した。
区分 | 地域 | 車線数 | 中央分離 | 歩行者交通量 | 基準速度 |
1 | 市街地 | 2車線 | 多い | 40km/h | |
2 | 少ない | 50km/h | |||
3 | 4車線以上 | あり | 多い | 50km/h | |
4 | 少ない | 60km/h | |||
5 | なし | 多い | 50km/h | ||
6 | 少ない | 50km/h | |||
7 | 非市街地 | 2車線 | 多い | 50km/h | |
8 | 少ない | 60km/h | |||
9 | 4車線以上 | あり | 多い | 60km/h | |
10 | 少ない | 60km/h | |||
11 | なし | 多い | 50km/h | ||
12 | 少ない | 60km/h |
示された各区分の基準速度は、太田報告書のページ10の基準速度と同じである。
なお、同通達の別添第32種別「規制速度の決定方法」の2の項には、次のように記してある。
基準速度一覧表で設定した基準速度を最大限尊重しつつ、別表の補正要因の例示を参考にし、現場状況に応じた補正を行い、原則として基準速度から±10km/hの範囲で規制速度を決定する。
なお、この場合において、現行規制速度が実勢速度(85パーセンタイル速度*1)と乖離(概ね20キロメートル毎時以上)している道路においては、適切な規制速度となるように検討すること。
3)速度規制の見直し
警察庁は、2011年(H23)4月から2012年(H24)3月までの期間に実施した最高速度の見直しを実施し、2012年(H24)11月8日に実施結果を公表した。次の枠内は日経新聞(2012/11/8 10:23)より抜粋した。
道路の最高速度、9区間で70~80キロに引き上げ 生活道路では引き下げも
警察庁は8日、道路交通環境の変化などを受けて2009年度から進めてきた最高速度の見直し結果を公表した。11年度末時点で計2219区間(4046キロメートル)で見直し、大半が最高速度の引き上げ。バイパスなど自動車専用道路に近い「通行機能を重視した道路」9区間(79キロメートル)では、時速60キロメートルから同70~80キロメートルまで引き上げた。
一方、主に住民の日常生活に使われる「生活道路」135区間(80キロメートル)で、最高速度を従来の時速40~60キロメートルから同30キロメートルまで引き下げた。
警察庁は「実態に適合しなくなった規制を放置すれば、かえって交通事故の原因となり、規制に対する信頼や国民の順法意識を損ないかねない」としている。
最高速度規制の見直し状況(平成21年度~23年度)
第1回 交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に関する懇談会の資料2より抜粋した。
警察庁が発表した上記表においては、一般道(一般道路)の36.2%を見直したとされ、9区間を法定速度の時速60キロを超える速度に設定したとしている。しかしながら、法定速度を超えて速度規制がなされた道路は、特別な道路ばかりである。
- 時速80キロ規制に見直された道路
- 【栃木】一般国道408号:宇都宮北道路
- 時速70キロ規制に見直された道路
- 【北海道】一般国道337号:道央新道(当別バイパス・美原道路・美原バイパス)
- 宮城県道36号築館登米線:みやぎ県北高速幹線道路
- 【新潟】一般国道8号および一般国道7号:新潟バイパス、新新バイパス
- 【石川】一般国道159号:津幡バイパス
- 兵庫県道95号灘三田線:六甲北有料道路(北神バイパス)
- 【岡山】一般国道2号:岡山バイパス
- 宮崎県道10号宮崎インター砂土原線:一ツ葉有料道路
- 鹿児島県道17号指宿鹿児島インター線:指宿スカイライン
次に、法定速度の時速60キロを超えた制限速度が設定された上記9区間を分類する。
道路整備上の分類と交通管理上の分類
次の表は、道路整備上の分類と警察が行う交通管理上の分類を統合したものである。
- 赤字は、速度規制が緩和された上述の9区間を示す
- 道路交通法においては、高速自動車国道と高速自動車国道の本線車道以外の道路の2種類で分類されている。
- 一般的に、多くの道路利用者は、有料道路(多くは自動車専用道路)を高速道路と呼んでおり、道路交通法の区分との乖離がみられる
- 道路整備に関する法令は、その道路の役割のほか、建設費と償還の関係で区分数が多い
- 道路構造令には、建設費も償還も関係ないのでシンプルな区分となっている
- 地域高規格道路は、有料/無料、自動車専用道路/一部車両通行規制/車両規制なし、と多区分に分類されている
- 法定速度を規定する道路交通法施行令は、高速自動車国道とそれ以外の単純な区分となっている
- 道路構造令が分類する第1種/第2種、第3種/第4種の区分は地方部/都市部で分類することが規定されているが、地方部/都市部の区別に明快は定義は存在しない
以上のとおり、警察が大々的に発表した9路線の規制緩和は、一般道に対して行われたものではなく、すべて地域高規格道路である。その中には有料道路(指宿スカイライン・六甲北有料道路・一ツ場道路)や自動車専用道路(みやぎ県北高速幹線道路)を含み、新潟バイパスと新新バイパスを除き、車両の通行規制が行われている。
2012年(H24)11月8日の警察発表では、画期的な規制緩和が行われたかのようにされているが、2009年(H21)10月29日に速度規制基準が見直される以前から、道路交通法施行令に規定さ3れた60km/hを超える速度に緩和された一般道(高速自動車国道以外の道路)はいくつも存在する。自動車専用道路としては、首都高速湾岸線、阪神高速道路湾岸線、第三京浜、横浜横須賀道路、小田原厚木道路(平塚IC-厚木IC)などがあげられる。自動車専用道路以外では、横浜新道(新保土ヶ谷IC-今井IC)、小田原厚木道路(厚木IC-小田原西IC)などがある。
速度規制基準の改訂はさておき、1960年(S35)から変わらないのは、道路交通法上の一般道(高速自動車国道以外の道路)の法定速度が時速60キロメートルとされていることだ。
地域高規格道路
以下、国土交通省が2004年(H16)3月30日に発表した地域高規格道路の区間指定についてより抜粋した。
- 国土や地域の骨格を形成し、広域の物流や交流を分担する広域幹線道路は、高規格幹線道路、一般国道、主要地方道から構成され、延長約12万キロに 及びますが、自動車専用道路として高い走行サービスを提供する高規格幹線道路と、その他の幹線道路では、走行速度等のサービスレベルに大きな格差があるのが現状です。
- このため、高規格幹線道路を補完し、地域の自立的発展や地域間の連携を支える道路として整備することが望ましい路線を「地域高規格道路」として指定し、自動車専用道路もしくはこれと同等の規格を有し、概ね60km/h以上の走行サービスを提供できる道路として整備を行っているところです。
次の図は、同発表に添付の関東地方整備局管内地域高規格道路指定路線図である。
地域高規格道路は、自動車専用道路もしくはこれと同等の規格で整備されたものである。横浜環状2号線は横浜市道であるが、地域高規格道路として整備された道路であり、当然、自動車専用道路もしくはこれと同等の規格で整備されている。
なお、地域高規格道路の区間指定についてには「概ね60km/h以上の走行サービスを提供できる道路として整備」とされている。これに限らず、道路整備における(設計)速度は、渋滞を回避するために整備する新たな道路に対し、用地取得、造成方法やジャンクションの取り方、車線幅や中央帯などの道路の構造を決めるための指標である。
つまり、(設計)速度は、設計速度の条件を満たさないカーブの代わりにトンネルを掘ったり、道幅を確保するために山肌を削ったりと、最低条件を満たす作業のための指標である。
(設計)速度にあわせて、直線をわざわざカーブにしたりすることはないので、設計速度より速い速度で安全に走行可能な区間は存在し得る。(設計)速度が一定の区間での旅行速度を目標とするものであるから、とうぜんのことだといえる。
地域高規格道路の区間指定についてに設計速度と明示されていないので、ここまで(設計)速度としたが、設計速度の定義について、内閣府がおこなった最高速度違反による交通事故対策検討会の第3回資料8自動車の走行速度と道路の設計速度・最高速度規制との関係の冒頭に示された文章を引用する。
設計速度については、道路構造令(昭和 45 年政令第 320 号。以下「構造令」という。)第2条第 22 号において、「道路の設計の基礎とする自動車の速度をいう」と規定されている。
すなわち、「道路の幾何構造を検討し決定するための基本となる速度」であり、曲線半径、片勾配、視距のような線形要素と直接的な関係をもつほか、車線、路肩等の幅員を決定する直接の要因である道路の区分の考え方のもとにも、設計速度の概念が導入されており、幅員要素とも間接的な関係が保たれているとされている。
さらに、設計速度と走行速度との関係の項を抜粋する。
設計速度は「天候が良好でかつ交通密度が低く、車両の走行条件が道路の構造的な条件のみに支配されている場合に、平均的な運転者が安全にしかも快適性を失わずに走行できる速度である」とされている。「したがって、例えば設計速度が 80km/h の道路では、交通密度が小さければ普通の運転者は、少なくとも 80km/h の速度で、安全にしかも快適に走行することができる。しかし、道路の幾何構造の要素は自動車の走行安全性に対しては余裕をもたせており、線形等の条件が良ければ 80km/h を超える速度で安全に走行することも可能である。一般道においては、運転者は、道路線形等の幾何構造のほか、交差点等の状況、駐車車両や沿道との出入りの状況、歩行者等の存在や自動車の混み具合といった交通の状況、最高速度の制限等の交通規制の状況などに応じて適宜走行速度を選択している。このように実際の走行速度は、交通等の諸要因の影響を受けるので一律に規定することができないため、道路を設計する場合には、幾何構造を決定するための統一尺度として設計速度を設定している」とされている。
一方、道路交通法第22条および第22条の2に規定された最高速度は、それを超過すること自体が違法行為とされる。それならば、すべての道路において、車両が走行できる上限を定める規制速度は、設計速度より高い速度とされるのが当然である。
ましてや、設計速度がある程度長い区間で設定され、その中には設計速度より速い速度で安全に走行できる区間が存在し得るのに対し、規制速度はより短い区間で設定し得るからである。規制速度は、違法行為を取り締まる根拠となる速度であり、実際、速度取り締まりはピンポイントで行われるから、なおさら、設計速度より短い区間で精密に設定するべきものである。少なくとも、設計速度と同じ速度で最高速度を規制することには、何ら根拠はないといえる。
根本的な問題は法定速度があまりに低いこと
以上のとおり、警察庁が定めた速度規制基準は、統計学的公正さを欠いたデータを根拠にしているおそれがあり、また、算定プロセスの科学的合理性については瑕疵があると言わざるをえない。
また、警察庁が、道路構造令の設計速度を持ちだして速度規制基準を正当化しているが、これは失当である。設計速度は、路線全体の交通計画と整備予算によって決定されるものであり、特定区間を安全に走行する上限値を定めた速度ではない。
一方、規制速度は、警察が特定箇所の一瞬に対して行う速度取り締まりの根拠とされる。つまり、設計速度と規制速度は、目的がまったく異なるものであるゆえ、全国一律の規制速度の拠り所として、設計速度を引用することは不適当である。
2009年(H21)4月2日には「規制速度決定の在り方に関する調査研究」(委員長:太田勝敏氏)が、2013年(H25)12月26日には「交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に関する懇談会」(筆頭委員:太田勝敏氏)が実施され、速度規制とその取り締まりに合理性と民意が与えられたかのように見えるかもしれない。
しかしながら、警察庁が人選を決め、警察庁が報酬を支払って行われる研究や会議で、警察庁の意図を汲み取らずに結果をまとめる参加者がいるはずがなく、結果、1960年(S35)に定められた一般道の法定速度時速60キロメートルを頂点とし、そこから逓減方式によって決められているに過ぎない。
その結果、多額の費用をかけ て、立派な地域高規格道路を作っても、時速60キロを基準とせざるを得ないのである。そして、時速60キロを頂点とした速度規制体系を守るために、中央分離帯と完全な歩車分離が完備し、歩行者横断禁止の4車線道路にさえ、歩行者の危険性を材料にして(太田報告書)、時速50キロに規制されてしまうのである。
生活道路は時速30キロ、少し広くなって時速40キロ、ここまでは妥当性があるし、誰もが納得する。もともと、速度取り締まりが行われない道路だから、車両運転者と警察との反目もない。つまり、住宅街の道路や生活道路の速度規制については、既に社会的合意が形成されているのだといえる。ひと握りの逸脱者をいかに抑止するかは別問題である。
大きな問題は、時速50キロから時速60キロに規制された道路に顕在する。片側2車線以上、完全な歩車分離、数kmにわたってほぼ直線、信号も少ない、横断者も存在しない、そんな道路でさえ、生活道路の規制速度から、 たったの時速10~20キロしかプラスされていないのである。
先に記したとおり、ヨーロッパ諸国における一般道の規制速度は時速 80キロから時速100キロとなっている。道路交通法施行令に規定された時速60キロが、著しく低いことは誰の目にも明らかである。
そもそも、大陸のような北海道と、世界的にまれな交通体系を発展させた東京圏を一律に規制すること自体に無理がある。それでも、警察庁が全国一律の法定速度を維持するつもりなら、公正で科学的な再調査を行って、法定速度を見直すか、あるいは、法定速度を廃止して、地域にゆだねるべきである。
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- 2013年11月3日国家公安委員長の疑問
- 2014年11月15日速度と安全の関係
- 2013年11月24日85パーセンタイル速度と規制速度の関係
- 2013年11月7日争点は速度規制の合理性と取締りの妥当性