暴力団リスクを煽り芸能界に天下る警察官僚の鉄面皮
2011年、吉本興業のお笑い芸人、島田紳助氏は、暴力団との関係を理由に、芸能界を引退した。直後、当時警察庁長官だった安藤隆春氏は、芸能界に警察が支援することを記者会見で発表した。それから5年後、安藤氏は、芸能界の大手プロダクションアミューズの取締役にちゃっかり就任した。
このように、暴力団リスクのあるところには、警察OBが珍重されるポストが生まれる。そして「安全安心」という耳障りよいフレーズで大衆の安全欲求を刺激し、「危機管理」という市場が育てられてきた。
警察組織が、どのようにして経済界に影響力を強めてきたのか、その経緯を要約したい。
警察が勢力を広げるポイントとなった法改正
1994年の警察法改正により、安全という名目さえあれば、際限なく警察が介入できるようになった。法施行と同時に「防犯課」の看板は「生活安全課」に一斉に架けかえられた。
「犯罪、事故その他の事案に係る市民生活の安全と平穏に関すること。」
1995年改正で修正された第22条(生活安全局の所掌事務)1項1号
この条項により、警察の活動範囲が広がると同時に、警察と企業が直接関わる機会は激増することになる。そのことを理解するキーワードは「危機管理」と「安全安心」だ。
日弁連は、警察の活動範囲拡大への懸念と警察改革の必要性を示す「警察活動と市民の人権に関する宣言」を発出し、警察の影響範囲が拡大することに対する懸念を示した。しかしながら、改正警察法の施行後、警察活動の拡大は着々と進められることとなる。
- <生活安全条例>
- 2006年以降、生活安全条例が全国の自治体で一斉に導入された。「安全安心」というフレーズは、凄まじい頻度で繰り返されるようになった。
- 「コンプライアンス(法令遵守)」が声高に叫ばれるようになったのもこの頃からだ。
- <暴力団排除条例>
暴力団の排除を名目として、民間企業が契約する際において、暴力団と契約しないよう努力を求める条例。暴力団を規制するのではなく、暴力団排除に協力しない民間企業を規制する法律。
同法に規定された暴力団排除の方法は、契約前の自己申告(「あなたは暴力団員ですか?」という質問にYES/NOで答えるアンケート)が基本なので、どれほどの効果があるか大いに疑問だ。
これを推し進めたのは、当時の警察庁長官で、後にアミューズの社外取締役となる安藤隆春氏である。法の施行後、すべての自治体で条例化された。
警察が勢力を拡大するプロセス
このように、1994年の警察法改正に端を発し、生活安全局が活躍するための条例が整備されていった。危険を煽ることで、危険防止に民間が取り組む必要が生じ、そして、企業が警察に依存せざるを得ない情況「危機管理(の必要性)」が生まれるようになっていった。
そうして、日弁連が1994年の宣言で心配した通り、安全を名目にした勢力拡大が様々な業界で進んでいくことになるのである。ここからは、警察との結びつきが強まった業界の中から、カジノ関連と芸能界の情況を確認しよう。
≪芸能界への進出≫
- 1991年(参考情報)、暴対法可決。警察が暴力団を指定することが、憲法の保障する結社の自由に抵触するという反対を押し切って成立した。
- 2011年8月、島田紳助氏が暴力団との関係を理由に芸能界を引退した。
- 同年9月、安藤隆春警察庁長官は、芸能界に警察が支援することを記者会見で発表した。
- 同年10月までに、「暴力団排除条例(暴排例)」が全国で施行された。安藤長官は、同じ月に退官し、「暴排条例」は安藤長官の『置き土産』となった。なお、「暴排条例」は、民間企業に暴力団排除への協力を求める条例である。
- 2016年、安藤隆春元警察庁長官がアミューズの取締役に就任した。
- 2020年(参考情報)、公正取引委員会は、芸能事務所における慣行や契約形態が、独占禁止法における優越的地位の濫用にあたり得るとの見解を示した。
暴力団排除条例の後、警察OBを受け入れる企業が増えたように、暴力団リスクのあるところには、常に警察OBのニーズが生まれる。そして、警察庁長官でありながら、芸能プロダクションの暴力団リスクをあおり、危機管理(の必要性)を強調し、その業界の最大級の芸能プロダクションの役員におさまったのが安藤隆春氏である。
なお、就任あいさつ以外で、警察庁長官がテレビ会見をするのは、極めて異例のことだ。
以上の通り、警察が勢力を拡大する過程において、危機管理はビジネスとなった。
なお、芸能分野において、最初に危機管理ビジネスをはじめた会社は、「VIP・タレント向け危機管理サービス – リスクコントロール報道対策」という商品をつくった。その対応内容として、次のことが示されている。
・ 暗殺 ・誘拐 ・暴力 ・事故 ・マスコミ ・ブラックジャーナル・パパラッチ(写真週刊誌等)・メディカルエマージェンシー ・脅迫・ストーカー・各種犯罪・その他危険な事態
その会社の設立は平成3年。設立当初の顧問には、則定衛元検事長、河上和雄元東京地検特捜部長、初代内閣安全保障局長の佐々淳行氏らがいた。代表は、元中国管区警察局長の保良光彦氏であったという。
このことは、タレント向け危機管理サービスが、警察OBと検察OBらによって商品化されたことを示している。
国家体制の屋台骨の問題なのに意見するのは日弁連だけ
以上のとおり、警察組織は、芸能プロダクションを含むさまざまな民間企業でOBが活躍できる場を広げてきた。
冒頭に示した通り、警察の舞台が広がったのは1994年の警察法改正が起源である。その当時、法律学者や弁護士団体が、警察権力の拡大に危機感をあらわにしたのは、安全という名目さえあれば、際限なく警察が介入できるようになっていることだ。
日弁連は、1994年の「警察活動と市民の人権に関する宣言」において、警察の問題を提起し、改革すべき内容を提示した。次に抜粋する箇所は、改革すべき内容を端的に示してる。
今日なによりも重要なことは、警察に対する民主的コントロールを保障するために、公安委員会の警察に対する監督権限の強化、公安委員の公選制を含む選任方法の改革などの公安委員会制度の抜本的改革をすすめる必要がある。また、市民が拡大してきた警察活動を効果的に監視する市民参加の警察監査制度、警察官適格審査会、警察オンブズマンなどのシステムを創設する必要があり、その具体化を早急に検討すべきである。
1994年 日弁連 警察活動と市民の人権に関する宣言より抜粋
国家体制の屋台骨の問題なのに、政治家が手をつけようとしないのは、 政治とカネの問題で警察に目をつけられたくないことと、パチスロの項に示した通り、警察のシマであるパチスロ業界の利権がカジノにシフトしようとする流れのなかで、おこぼれにありつけるからだ。
変わらぬ金権政治と金権行政
1994年に日弁連が発出した「警察活動と市民の人権に関する宣言」は、警察のあるべき姿をちゃんと映している。しかし、警察が自ら足かせをつけるはずもなく、そして1999-2000年に警察不祥事はピークに達した。
警察不祥事の多発後、国が選定した専門家らが「警察刷新に関する緊急提言」を発表した。しかし、肝である公安委員会制度の改革については、「公安委員会の活性化」とされただけで具体的な案を織り込まなかった。
また、公安員会の管理範囲を限定したにもかかわず、それにかわって民主的コントロールを補うものは規定されなかった。
権力監視をしないマスメディアと民主的補完システムの機能不全
民主的コントロール以前に、報道機関が権力監視をしなくなった問題がある。記者クラブで警察となれ合うこと慣れ切ったマスメディアは、警察に都合のよい「発表報道」ばかりをするようになり、手間のかかる「調査報道」をしなくなったのである。
図の中央下部「犯罪の受付」に示したのは、警察が捜査対象を取捨選択することによって、犯罪統計の操作が可能となることである。そして、統計が始まって以来、殺人事件の検挙率が概ね100パーセントを示すのは、殺人の疑いのあるケースを自殺や事故にしているからだ(→殺人天国)。
ブラックボックスの中で警察がしていることが見えないだけでなく、警察の捜査を民主的に補うはずの告訴告発制度はまともに機能していない。それゆえ、捜査の怠慢を矯正することが極めて困難となっている。
さらに絶望的なのは、警察は文民統制ができない状態となってことだ。
そして、警察は、昭和の時代から指摘されつづけた問題の先送りを現在まで続けている。
だから、多くが自殺偽装を疑う事態を黙殺し、国民の生命を軽んじることができるのだろう。
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