被告人の冒頭陳述

被告人の冒頭陳述

刑訴法第388条の規定により、被告人は控訴審で自ら弁論をすることができない。

しかしながら、控訴趣意書に書き切れない部分があるため、それを被告人冒頭陳述として陳述したい、と打診したところ、担当書記官は次のように回答した。

  • 冒頭陳述の内容を事前に送ること
  • 文書のタイトルは「被告人冒頭陳述書」ではなく「意見書」にすること
  • 冒頭陳述できるか否かは裁判体の判断である

なお、被告人冒頭陳述の要件について説明を求めたが、一切の説明はなかった。

東京高等裁判所しかたなく、私が「このレベルまでは大丈夫だろう」と思う文法を使って、被告人冒頭陳述を構成した。

ところで、精密司法と評された日本の刑事裁判において、提出される文書は次のしきたりに則って書かれているようだ。

事実だけを書く
自分の意見や感想で構成した作文ではなく、事実で構成する。
必要に応じて、それが事実である証拠を添付する。
正確な言葉を用いる
通称が広く一般的に通用していても、正確な言葉で記す。
それを繰り返す場合は、常に同じ言葉とする。
主語(動作主体)の次に動詞、目的語という平凡な文法とする
目的対象を主語とする能動態や、その他変則的な文法はできるだけ使用しない。
また、前後の文脈から容易に推察できる場合でも、主語や目的語は省略しない。
大言壮語は使わない
裁判文書における大言壮語には、「大きい」「多い」といった形容詞さえ含まれる。
擬態語や擬音などの効果音もご法度である。
断定的な表現はしない
法廷では事実を判断するのは裁判官であることになっているので、万人が事実と思うことさえ断定してはいけない。裁判文書に「○○は明白である」「△△と言わざるを得ない」が飛び交うのは、当事者には断定ができないからだ。

こうした「法廷のしきたり」に従って書かれた文章は、とてもつまらないが専門家らしい文書になる。それが仕事の職業弁護士にとっては、専門化としての対価をもらい易くなるのだろう。

一方、弁護士でない人にとって、これらの「法廷のしきたり」に従って文章をまとめる作業は、まるで右利きの人が左手で字を書かされるかのように苦痛な作業だ。

ともあれ、陳述させてもらうために被告人冒頭陳述をまとめ、意見書というタイトルで東京地裁に郵送した。

執筆者プロフィール

野村 一也
ライター
 創世カウンシル代表

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