ジョーイの季節(よみがえる尊皇攘夷)
最大の悲劇は、悪人の圧制や残酷さではなく、善人の沈黙である
この有名なキング牧師の言葉は、行動段階の問題を指摘している。
最大の悲劇は、悪政による不公正や停滞ではなく、善人の無知である
この言葉は、情報格差がひろがる社会で、行動前の段階において発生している問題だ。
鎖国下の日本は、300年にわたり外国との交流を遮断し続けた。今から150年ほど前、黒船の来航によって、日本のガラパゴス化を実感した知識人たちは、世界との差を埋める術を模索し、時の政府「幕府」に対し、開国を迫った。
異物排除に走るジョーイ
一方、近代兵器の威力を知らず「異人は俺が斬り殺す!」といったノリの純粋で無知なサムライたちは、「天誅(てんちゅう)」と称し、開国による近代国家の実現を主張する者たちを抹殺した。これが『攘夷(ジョーイ)』の暴走である。
なお、『攘夷』とは、「異質な者を排除する」という意味だ。そして『天誅』は、敵と想定した外国人ではなく、同じ日本人を「異質な者」として排除したのである。
ちなみに『尊王攘夷』の『尊王(ソンノー)』とは、「日本は神の国だから負けるはずがない」といった程度の思想である。天皇の神格化によって、体制下におけるサムライの存在価値を維持しようとしたに過ぎない。
政府の広告塔と化したテレビ
さて、現代の日本は、明治維新に匹敵する変化に迫られている。それは、TPPや脱原発や米軍基地といった枝葉の問題のみならず、政府のあり方そのものに変化の必要性が突きつけられている。政府に既得権が与えられた大メディアが、政府に不利益な報道を抑制するから、表面化しないだけだ。
テレビ朝日の人気番組「TVタックル」は、かつて評価された政治・行政バラエティ色を完全に封印された。そして現在のTV番組では、日本の製品や自然、そして文化を外国人に「すばらしい!」と言わせる番組が乱立している。
○和風本舗
○YOUは何しに日本へ?
○所さんのニッポンの出番!
○世界が驚いたニッポン!スゴ~イデスネ視察団
そのほか、「ニッポン」をタイトルにした番組または特集は数知れない。
警察官を英雄視する報道
警察特番では、あいかわらず「(法に基く)天誅」が繰り広げられている。「ルールを守らない不届き者」 vs 「それを成敗する正義の警察官」の構図だ。多くのクルマが日常的に違反している場所さえ「悪質な違反だ!」といったナレーションを織り込むことによって、警察官の正義が露骨に強調される。
大事故が起きるても、大メディアが科学的に原因を追求することはない。ただひたすら、違反があったか否かにフォーカスされている。違反が発覚したら、その違反が原因のすべてとみなして、違反者を叩く報道ばかりがなされている。この傾向は、交通事故に限らない。
ネット時代のジョーイ
こうした偏向報道がまかりとおる日本において、報道を鵜呑みにするリテラシーなき者たちは、相対的な無知となり、そして、ジョーイに走る。
その論法は、極めて保守的で幼稚なものばかりだ。
「違反は違反」「法律を守れ!」「ルールを守れ!」
メディアのなかった時代にジョーイが暴走して『天誅』をなしたように、現在のジョーイも暴走している。もちろん現代では、刀剣による『天誅』はおこなわれない。それに変わって、「言葉という刃物」による中傷が絶え間なく繰り返されている。その拠り所は、次のとおり極めて明快かつ安易だ。
「日本は日本。外国は外国」
「ここは日本だ!嫌なら外国に行け!!」
ガラパゴスの桜タブー
江戸時代の政府(幕府)は、独断で米国との不平等条約に調印し、条約調印の説明を求めた諸侯を弾圧(安政の大獄)した。後に主導者の井伊直弼は暗殺されることになる。
一方、現在の日本政府は、縦割りの官僚機構がその実態だから、誰も暗殺されないし、個人として責任をとることもない。
また、大メディアは、違反者への攻撃を煽り、現状を肯定する一方、桜タブーをはじめとした報道タブーに決して触れようとしない。
このようにソンノー・ジョーイは繰り返され、変革は、また10年、さらに10年と遠のいていく。
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