神奈川県警察の準備書面(1)行政事件訴訟

行政事件訴訟弁論2回目の神奈川県警察の弁論(準備書面)

日本国憲法第82条の規定により、『対審』は公開法廷でおこなうことになっている。

『対審』は、民事訴訟や行政訴訟では『口頭弁論』、刑事訴訟では『公判』と呼ばれる。

『口頭弁論』といいながら、口頭で主張されることはほとんどなく、事前に準備書面を提出し、法廷では「準備書面のとおりです」と言うだけだ。だから、裁判を傍聴しても、いったい何が弁論されたのか、さっぱり分からない。

ハリウッドに法廷を主な舞台にした映画があるのに日本にそれがないのは、日本の法廷では双方の主張がまったく分からず、映画の舞台になり得ないからだ。

横浜地方裁判所さて、行政訴訟における神奈川県警の法廷での主張は以下のとおり、これは訴状に対する『対審』となっている。

紙に拘る法曹関係者は、付箋を貼って、甲○×や**法△□条の理解を手助けしている。そうして証拠を評価し、法律を拠り所にして裁定する日本の司法関係者の作業は、精密司法と呼ばれている。しかし、本当に精密に行われているのかどうかは、裁判を傍聴しただけでは一切わからない。

さて、本サイトでは、誰もが双方の主張と裁判所の判断を評価できるようにハイパーテキストでリンクを繋いでいる。これによって、裁判官が付箋を頼りに紙をめくりめくりするより、ずっとスマートに双方の主張を理解できるはずだ。

平成26年(行ウ)第22号「歩行者が出てくる危険性もない道路」で行われる速度取締りによる処分取消し請求事件

原告 野村一也

被告 神奈川県

準備書面(1)

平成26年7月28日

横浜地方裁判所第1 民事部合議A 係御中

被告指定代理人
矢部聡
大竹孝行
萩峯義成
佐藤公
金子秀行
梅田豊
山崎孝幸
佐久間英幸
伊藤成和
北村優美子
松村正和
野口富士
上田淳一

第1 請求の原因に対する認否

1 第1の1について

認める。

2 第1の2について

おおむね認める。ただし。「軽微な交通違反」については定義が明確でないため、認否しない。

3 第1の3について

認める。

4 第1の4について

具体的にいかなる事実をいうのか不明なため認否てきない。

5 第1の5について

認める。

6 第1の6について

おおむね認める。ただし、昭和35年の道路交通法施行令(以下「施行令」という。)制定時の同11条の最高速度は、「普通乗用自動車及び自動二輪車60キロメートル毎時」、「大型自動車、普通自動車以外の普通自動車及び第二種自動三輪車、50キロメートル毎時」、「特殊自動車、第一種自動三輪車、軽自動車及び第二種原動機付自転車40キロメートル毎時」、「第一種原動機付自転車30キロメートル毎時」と規定されていたが、数回の法改正を経て現在では、「自動車にあっては60キロメートル毎時、原動機付自転車にあっては30キロメートル毎時」に改定されている。

7 第1の7について

おおむね認める。ただし、速度取締りの方法は、「定置式速度取締り」ではなく「レーダー式車両走行速度測定装置を使用した速度取締り」が正しい。

8 第1の8について

「交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に関する懇談会」(以下「懇談会」という。)が国家公安委員会委員長主催で実施されたことは認める。

その余の原告の主張については、国家公安委員会委員長主催の懇談会に関するものであり認否できない。

9 第2について

(1) 第1段落について

おおむね認める。ただし、横浜市道環状2号線が「地域高規格道路」であるとする点は、被告はその認定機関にあらず不知(認定機関は、「道路管理者」となる。)。

また、「横断者は存在し得ない。」とする部分は、いつどの地点において、横断者が存在しないと主張するのか明らかでないため、認否できないが、「いつどの地点でも全く横断者は存在しない」との趣旨であるならば争う。

(2) 第2段落について

「原告は、同道路のJR横浜線上にかかる高架を超え、(中略)路肩付近にオートバイを寄せ、、停止した。」とする点、原告が後記本件速度違反場所において、最高速度50キロメートル毎時を43キロメートル超える93キロメートル毎時で走行したこと、及び和内豊巡査部長(以下「和内巡査部長」という。)が原告宅を訪れた点は認める。

その余は不知。

主張は争う。

なお、段落中に記載された「ワウチ警部」は、神奈川県港北警察署(以下「港北署」という。)交通課交通指導係和内豊巡査部長(和内巡査部長)が正しい。

(3) 第3段落について

認める。

(4) 第4段落について

認める。

(5) 第5段落について

認める。

(6) 第6段落について

おおむね認める。ただし、 甲第4号証の行政処分呼出通知書の受付日時は平成25年6月25日が正しい。

(7) 第7段落について

原告が港北署交通課に電話連絡をした日時が判然とせず事実確認をすることがとができないため認否できない。

(8) 第8段落について

和内巡査部長が平成25年7月に原告宅を訪問したことは認める。

その余は否認する。

(9) 第9段落(訴状4頁13行目)について

認める。

(10) 第10段落

(訴状4頁14~15行目)について

認める。

(11) 第11段落及び第12段落(訴状4頁16~19行目)について

原告が、平成26年3月2日に行った運転免許の更新手続の際に、本訴を提起する準備中であることを理由として、運転免許を停止する行政処分をしないように求めたこと、及び、神奈川県警察本部長(以下「本部長」という。)が、原告に運転免許の停止処分を執行したことは認める。

10 第3の1について

(1) (1)について

おおむね認める。ただし、道路交通法(以下「道交法」という。)第1条に規定する目的は、「安全と円滑」のみでなく、「道路における危険を防止(すること)」及び「道路の交通に起因する障害の防止に資すること」も目的である。

(2) (2)について

道交法第22条に最高速度が規定されていることは認める。

「不法行為の概念」については、その定義が明確でなく認否できない。また、「全国一律である必要性は規定されていない」とする点についても、何を指すのか判然としないため、認否できない。

(3) (3)について

施行令第11条にいわゆる一般道路の自動車の最高速度が60キロメートル毎時、原動機付自転車の最高速度は30キロメートル毎時と規定されていることは認める。

「不法行為の基準を全国一律で規制している」との点は、趣旨が不明であり認否できない。

(4) (4)について

施行令第11条に関する原告の見解を述べているようであるが、趣旨が不明であり認否できない。

仮に、後記本件速度違反場所における最高速度の指定が無効であるとの趣旨であるならば争う。

(5) (5)について

施行令第11条に関する原告の見解を述べているようであるが、趣旨が不明であり認否できない。

仮に、後記本件速度違反場所における最高速度の指定が無効であるとの趣旨であるならば争う。

(6) (6)について

争う。

11 第3の2について

(1) (1)について

警察法第1条に「個人の権利と自由を保護」、「公共の安全と秩序を維持」が記載されていることは認めるが、同条は、「警察組織ないし警察活動の目的」を規定したものでなく、「警察法の目的」を規定したものである。

(2) (2)について

おおむね認める。ただし、警察法第2条に規定する警察の責務は、「犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持」も含まれる。

(3) (3)について

認める。

(4) (4)について

否認ないし争う。

(5) (5)について

争う。

12 第4の1について

(1) 第1段落について

原告が甲第9号証の行政文書公開請求を行ったことは認める。

その余の主張については争う。

(2) 第2段落について

おおむね認める。ただし、「公開を拒絶した」のではなく「公開を拒んだ」という表記が正しく、原告が指定したVICS(63-Y-97)には、データの保存機能はなかったため公開請求の対象文書が存在しなかったことが正しい。

(3) 第3段落について

甲第11号証のとおり、平成25年6月21日付け、行政文書公開拒否決定通知書が変更されたことは認める。

原告が、神奈川県警察本部交通部交通規制課草間信幸技幹(以下「草間技幹」という。)及び宮脇誠技術職員(以下「宮脇職員」という。)を問いただし、拒否決定を変更させたとする点については、否認する。

(4) 第4段落について

甲第12号証が被告に送達されていないため不明であるものの、甲第13号証に「車両等の・・・ありません。」と記載されていることは認める。

(5) 第5段落について

認める。

(6) 第6段落について

認める。

(7) 第7段落について

甲第12号証が確認できないため認否できないが、原告が主張する平均速度は、その元となるデータが本来平均速度を換算するために設置された機器でないため、不正確な算出速度となる。

(8) 第8段落について

次の点は認める。

・原告が横浜アリーナ付近及び横浜市鶴見区東寺尾6丁目35番付近の国道1号線上に設置された超音波式車両感知器から送られた速度データを情報公開請求したこと

その余は不知。

なお、被告に甲第17号証及び甲第19号証は送達されていない。

(9) 第9段落について

横浜アリーナ近くの地点における平均速度が時速37.73キロメートルであるとする点は、甲第18号証の資料作成の根拠となったデータが必ずしも正確な数字であると認めることができず、「平均速度」の概念も明確ではないので否認ないし不知。

その余の原告独自の主張は、区間が明確でなく、また、「信号までの距離が短いなど抽象的な表記が多いため認否できない。

(10) 第10段落について

甲第20号証の平均速度が時速62.47キロメートルであるとする根拠が不明なため否認ないし不知、国道1号(甲第20号証に係る部分)の最高速度が60キロメートル毎時であることは認める。

その余は不知。

(11) 第11段落について

不知。

13 第4の2について

次の点は認める。

  • 原告が平成25年7月21日、甲第21号証の情報公開請求をしたこと
  • 本部長が平成25年7月23日付けで、該当文書を原告に公開したこと
  • 平成20年から平成24年の5年間で当該区間で起きた死亡事故は0件であったこと
  • 同区間における重傷事故は1件であったこと(ただし、軽傷事故は10件でなく9件が正しい。)
  • 甲第22号証における直近の3年間の軽傷事故が、年に1件づつ発生していること及び同号証の事故がすべて車両相互の事故であること

「本件取締り区間が、歩行者の飛び出すおそれのない安全な道路だということを示している。」とする点については否認する。

また、「取締り区間において、交通事故はほとんど発生していない」とする点については、「ほとんど」の定義が暖昧なため認否しない。

14 第4の3について

(1) 副題「検挙数をノルマ化し、・・・効果はない」について

否認ないし争う。

(2) 第1段落について

認める。

(3) 第2段落について

認める。

(4) 第3段落について

認める。

(5) 第4段落について

認める。

(6) 第5段落について

認める。

(7) 第6段落について

おおむね認める。ただし、「作成も公開もしていないため」でなく「作成も取得もしていないため」が正しい。

(8) 第7段落について

原告が、神奈川県警察本部交通部交通指導課大内豊警部補(以下「大内響部補」という。)に、平成25年10月11日付けの行政文書公開拒否決定通知書について説明を求めたことは認める。

その余は否認する。

(9) 第8段落について

認める。

(10) 第9段落について

認める。

(11) 第10段落について

おおむね認める。ただし、大内警部補が原告と対応したのは複数回に及ぶため、日付については特定できない。

(12) 第11段落について

大内警部補が、平成25年10月28日、原告に架電して、原告が公開を求めるデータを抽出できないと説明したことは認める。

その余は否認する。

(13) 第12段落について

次の点は認める。

・大内警部補が、平成25年10月30日、原告と会話したこと

・原告が、神奈川県警察本部総務部情報公開室に架電し、同室の担当者

が、,情報公開条例について原告に説明したこと

その余は否認する。

(14) 第13段落について

おおむね認める。ただし、神奈川県警察本部交通部交通指導課元木勝彦警部(以下「元木警部」という。)が、「公開を検討する旨を原告に伝えた。」とする点については、原告が情報公開請求をした内容では正しいデータを抽出することができないため、公開することはできないが、神奈川県情報公開条例の制定趣旨に照らし、できうる限り、原告の希望に沿う様に検討するという趣旨において伝えた言葉である。

(15) 第14段落について

認める。

(16) 第15段落について

争う。

15 第5の1について

(1) 副題について

争う。

(2) 第1段落について

争う。

(3) 第2段落について

不知ないし争う。

(4) 第3から4段落について

平成25年6月4日当時国家公安委員である古屋圭司氏が甲第45号証の発言をしたと報道されたことは認める。

甲第44号証は送達されていないため確認できず認否しない。

(5) 第5段落について

不知。

(6) 第6段落について

認める。

(7)  第7段落について

「すべての道路は、法定速度に大きな制約を受けている。」とする点については、「大きな」がどの程度のことを指すのか不明なため認否できない。

また、「一般道の上限として規定された法手速度は、甚だ現実から罪離している。」とする点についても、具体的な地点が特定されておらず認否できない。

(8) 第8段落について

不知。

16 第5について

原告は、法定速度について緩々自説を展開しているが、後述するとおり、本件速度超過違反行為は施行令第11条に規定する法定速度を超過したものではないから、原告の主張は本件訴訟とは関連性がないため、認否しない。

17 第6について

争う。

18 第7について

争う。

第2 本件処分に至る経緯

1 本件処分の基礎となる事実

原告は、神奈川県公安委員会(以下「公安委員会」という。)から第一種運転免許(以下「免許」という。)のうち、8トン限定中型自動車免許、普通自動二輪車免許の交付を受けている者であるが、

① 平成24年10月13日午後10時21分ころ、東京都八王子市大和田町1丁目30番付近道路において、普通乗用自動車(登録番号「横浜303の4300号」)を尾灯が切れた状態で運転し、もって道交法第62条(整備不良車両の運転の禁止)違反(以下「本件整備不良違反行為」という。)。

② 平成25年5月16日午後3時48分ころ、公安委員会が道路標識等により最高速度を50キロメートル毎時と指定した横浜市港北区新横浜1丁目19番20号付近道路(以下「本件速度違反場所」という。)において、上記最高速度を43キロメートル超える93キロメートル毎時の速度で普通自動二輪車(登録番号「横浜Cな1515号」。以下「原告車両」という。)を運転して進行し、道交法第22条第1項(最高速度)違反(以下「本件速度超過違反
行為」という。)(乙第1号証

③ 平成25年7月14日午後5時14分ころ、横浜市金沢区堀口10番地横浜横須賀道路金沢支線下り3.5キロポスト付近道路において、原告車両で追い越し車線を約1.1キロメートル走行し、もって道交法第20条第1項(車両通行帯)違反(以下「本件通行帯違反行為」という。)をした。

なお、原告は、①及び③の違反行為については、訴状で何ら言及しておらず、また、上記②の違反行為についても、第1回口頭弁論期日において、最高速度を超えて進行したこと自体は認めているので、本件各違反行為の事実については争いはない。

2 本件各違反行為に係る捜査経過等

(1)本件整備不良違反行為の取締り及び事件送致等

ア 原告は、本件整備不良違反行為を現認した警視庁第9方面交通機動隊員によって本件整備不良違反行為を告知され、交通反則告知書及び納付書の交付を受けた。

イ 警視庁交通部交通執行課交通反則通告所立川通告センター(以下「立川通告センター」という。)は、原告が、指定された期日までに反則金を仮納付しなかったことから、平成24年11月28日、「交通反則通告書」及び反則金の納付に係る「納付書」を原告に送付して通告を行ったが、原告が不在のため配送することできず、横浜中央郵便局での保管期限も経過し、立川通告センターへ通告書は返送された。

ウ このような経過から立川通告センターは、平成25年1月9日、神奈川県神奈川警察署(以下「神奈川署」という。)長に嘱託通告依頼を行うこととし依頼した。通告の依頼を受けた神奈川署員が、同年10月28日原告に通告に関する連絡をしたところ、原告は通告書の受領を拒否した。
神奈川署長は、同年10月29日付け、原告が通告書の受領を拒否した旨を記載した嘱託回答書を立川通告センター宛てに返信した。立川通告センターは、平成25年11月11日、前記嘱託回答書を受け取り、関係書類とともに、翌平成26年4月3日同庁交通部交通執行課即決第3係(以下「警視庁交通執行課」という。)に引き継いだ。

エ 警視庁交通執行課は、原告が反則金を納付しなかったことから、本件整備不良違反行為を刑事事件として東京区検察庁に書類送致する予定である。

(2)本件速度超過違反行為の取締り及び事件送致等

ア 原告は、本件速度超過違反行為を現認した神奈川県港北警察署(以下「港北署」という。)交通課交通指導係の警察官らによって、本件速度超過違反行為について、交通切符(乙第1号証参照)を作成されるとともに、速‘度測定場所、現場略図が記載され、測定速度が貼付された速度測定カード(レーダー用)(乙第2号証)の提示を受けた。さらに、港北署警察官は、速度測定カード(レーダー用)(乙第2号証)の測定場所と速度記録紙の印字されている測定時分「15時48分」、測定速度「93km/h」を原告に確認させ、本件速度超過違反行為事実及び交通切符の記載内容並びに違反内容に間違いがなければ交通事件原票(乙第1号証)下部の供述書欄「私が上記違反をしたことは相違ありません。」の氏
名欄に署名押印を求めたところ、原告は、「通常80km/hで流れている道路なので規制速度が低すぎる野村一也」と署名し、速度測定カード(レーダー用)(乙第2号証)に貼付された速度記録紙の確認印欄に〈⑳と署名した。
その後、港北署警察官は、原告に対し、今後の手続きとして平成25年6月17日午後1時から同日午後3時までの間に、保土ケ谷区簡易裁判所へ出頭し、略式裁判の手続きを行うことになる旨を説明した。

イ 港北署は、本件速度超過違反行為について、平成25年5月31日、道交法違反被疑事件として関係書類と共に保土ケ谷区簡易裁判所内神奈川県警察本部交通部交通指導課分室(以下「交通指導課分室」という。)へ引き継いだ。引き継ぎを受けた交通指導課分室は、関係書類を精査したところ、交通切符の署名押印欄に「通常80km/hで流れている道路なので規制速度が低すぎる野村一也」の記載しかなく、押印がなかったことから、同年6月17日の出頭指定を取消すと共に、関係書類を港北署へ差し戻して、原告が押印しなかった理由について補充捜査を行う様に同月21日付けで指示した。

港北署員は、7月21日、原告宅に赴き、取り調べたところ、原告は、本件速度超過違反行為は認めたものの、署名押印は拒否したため、作成した供述調書(乙第3号証)とともに再度交通指導課分室に関係書類とともに引き継いだ。

交通指導課長は、港北署の補充捜査の結果と共に同年7月23日、本件速度超過違反事件を横浜区検察庁に送致した。

その後、本件速度超過違反事件は、平成26年2月21日付けで公訴を提起され、同年5月20日付けで、御庁において罰金8万円の判決となったものの、原告は原判決を不服として、平成26年6月3日付けで、東京高等裁判所に控訴し、現在公判中である。

(3)本件通行帯違反行為の取締り及び事件送致等

ア 原告は、本件通行帯違反行為を現認した神奈川県警察高速道路交通警察
隊(以下「高速隊」という。)員によって、本件通行帯違反行為を告知さ
れ、交通反則告知書及び納付書の交付を受けた。

イ 神奈川県交通部交通指導課交通反則通告センター(以下「神奈川県交通
反則通告センター」という。)は、原告が、指定された期日までに反則金を仮納付せず平成25年8月14日の出頭期日にも出頭しなかったことから、平成25年9月4日、「交通反則通告書」及び反則金の納付に係る「納付書」を原告に送付して通告を行ったが、原告は反則金を納付しなかった。

ウ 神奈川県交通反則通告センターは、本件通行帯違反行為について、平成25年10月30日、道交法違反被疑事件として関係書類と共に交通指導課分室へ引き継いだ。引き継ぎを受けた交通指導課分室は、同年10月30日付けで原告の出頭日を同年11月13日と指定し、呼出通知書を原告宛て発送したところ、原告は同日交通裁判所に出頭したため、交通指導課分室経由で保土ケ谷区検察庁に引き継いだ。
エ その後、本件通行帯違反事件は、同年11月13日付けで、略式裁判となったが、原告は、同年11月19日出頭し、同庁に罰金6,000円を納付したため、同年11月28日付け確定した。

3 本件処分決定の経緯について

(1)本件整備不良違反行為に係る違反点数の登録と処分量定の確認

警視庁第9方面交通機動隊長は、原告が本件整備不良違反行為を行った事実について誤りのないことを確認し取締り原票とともに、関係書類を警視庁交通部運転免許本部へ送付した。
送付を受けた警視庁交通部運転免許本部は、本件整備不良違反行為についての審査を行い違反事実に誤りのないことを確認し、その旨を東京都公安委員会に報告した。
東京都公安委員会は、本件整備不良違反行為(1点)について、道交法第106条(国家公安委員会への報告)に基づき、国家公安委員会に報告(登録)し た。

(2)本件速度超過違反行為及び本件通行帯違反行為に係る違反点数の登録と処分

量定の確認
ア 港北署長は、原告が本件速度超過違反行為を行った事実について誤りの
ないことを確認し取締り原票とともに、関係書類を神奈川県警察本部交通部運転免許本部運転免許課(以下「免許課」という。)長宛てに送付した。
送付を受けた免許課長は、本件速度超過違反行為についての審査を行い違反事実に誤りのないことを確認し、その旨を公安委員会に報告した。
公安委員会は、本件速度超過違反行為(6点)について、道交法第106条(国家公安委員会への報告)に基づき、国家公安委員会に報告(登録)したところ、原告が行政処分対象者に該当するとの通報がなされた。
イ 公安委員会は、国家公安委員会から通報を受け、免許課の職員をして、本件速度超過違反行為に係る関係記録を審査させたところ、行政処分の対象となる累積点数は

○平成24年10月13日整備不良(尾灯等)尾灯等・・・1点

○平成25年5月16日速度超過30以上50未満・・・6点

のみであり、原告の処分前歴は過去3年以内に1回であった。

このため、公安委員会は、原告が免許の効力を90日間停止する処分量定に該当するものの、警察庁丁運発第44号(乙第4号証)別表4の規定に基づき基本量定基準の処分期間(90日間)から30日を減じた60日間が原告の免許の効力を停止する処分量定に該当することを確認した(道交法第103条第1項第5号、同法施行令第38条第5項第2号イ、同別表第三の1第1
欄及び同別表第7欄、警察庁丙運発第11号(乙第5号証))。

(3)  意見の聴取及び本件処分の決定

運転免許停止処分は、道交法第114条の2第1項の規定により、公安委員会から事務の委任を受けている本部長が行うこととなっている。
このため、本部長は、意見の聴取を行うべく、原告に対し、平成25年6月25日を出頭日と指定した行政処分呼出通知書を送付したが、原告は呼出場所である免許課に出頭しなかったため、原告を免許停止60日と決定した(乙第6号証)。

(4) 本件処分の執行

運転免許の停止処分の執行は、特別の事情がない限り、一般的には意見の聴取後、処分の決定を経て処分を執行するが、本件処分は、原告が呼出日に出頭しなかったため、本件処分を執行することができなかった。
このため、免許課は、原告の居住地を管轄する神奈川署において、上記処分を執行させることとし、神奈川署の担当者をして原告に対し本件処分を執行するため、平成25年7月11日以降、原告宛てに同月26日を出頭指定した「呼出通知書」の送付及び電話での連絡を行い神奈川署に出頭することを促した結果、原告は同月26日、神奈川署の担当者に対して、「出頭はしない。一部納得のいかない処分があるので審査請求を行う予定であり、その旨免許本部に連絡してほしい。」と申し立てたため、本件処分を執行することができなかった(乙第7号証)。

また、原告は、神奈川署が出頭を促していた平成25年7月14日、本件通行帯違反行為を行ったため累積違反が

○平成24年10月13日整備不良(尾灯等)尾灯等・・・1点

○平成25年5月16日速度超過30以上50未満・・・6点

○平成25年7月14日通行帯違反・・・1点

の8点となった。

このため、公安委員会は、原告の処分前歴が過去3年以内に1回であったことから、原告が免許の効力を120日間停止する処分量定に該当することを確認したため、本部長は免許課を通じ、同年7月22日処分量定変更に伴う運転免許停止処分害(乙第6号証)の引上げ依頼を行った。

しかしながら、神奈川署が、原告を同年7月26日に呼び出していたことから、同停止処分書の引上げは、原告の出頭予定日である同月26日まで待つこととした(この場合、仮に原告が出頭予定日に出頭し処分を執行した場合、停止処分60日決定後の本件通行帯違反行為(1点)であることから、警察庁丁運発第44号(乙第4号証)別表1の規定により停止処分60日で執行することとなる。)。

しかしながら、前記のとおり原告は、同年7月26日、神奈川署に出頭しなかったことから、運転免許停止処分書(乙第6号証)は免許課長に返送(引上げ)された(乙第7号証)。

本部長は、意見の聴取を行うべく、原告に対し、平成25年9月19日を出頭日と指定した行政処分呼出通知書を送付したが、原告は呼出場所である免許課に出頭しなかったため、原告欠席のまま原告を免許停止120日と決定し、同日付けで、神奈川署へ原告の処分を執行するべく指示した(乙第8号証)。
神奈川署は、原告に対し、同年10月16日を出頭日と指定した「呼出通知書」の送付及び電話での連絡を行い神奈川署に出頭することを促した結果、原告は、同月15日、神奈川署の担当者に対して、不出頭する旨連絡した。

神奈川署は、引き続き、原告に対して、出頭するように連絡を入れたが、原告がこれに応じなかったため、同月24日、行政処分執行不能報告書(乙第9号証)により、免許課にその旨報告した。

免許課は、同年11月1日に、原告の本件処分に係る処分手配を県内各所属に行うとともに、再度神奈川署に対して、本件処分を執行するべく指示した。
原告は、平成26年1月23日及び翌2月19日、免許課へ架電し、本件処分に不服があるため争う手続きを開始することと、本件処分のための呼出しには応じないことを申し立てた。

原告は、平成26年3月2日、免許課を訪れ運転免許の更新手続を行ったが、免許課資料第2係において原告の申請内容等を確認したところ、原告に対する免許停止処分がいまだに執行されていないことが判明した。

このため、免許課の担当者は、原告に対し、原告の自動車運転免許を更新(以下「免許の更新」という。)した後、本件処分を執行する旨説明した。
免許課の担当者は、原告の免許の更新後、原告に対して、「120日の停止処分となる」旨説明したところ、原告は、免許の更新に来ただけで処分に同意していない旨綾々申立てた。

その後、免許課の担当者は、平成26年3月2日を始期とし同年6月29日を終期とする運転免許停止処分書を原告に提示し、同処分書の請書欄に署名押印を求めたところ、原告はこれを拒否したため、そのまま同処分書を原告に交付(執行)した。

免許課の担当者は、原告に対して、運転免許の停止期間の短縮講習について、2日間受講すれば最大60日間処分期間が短縮される旨説明すると、「分かりました」と申し立て、さらに、原告があらかじめ準備していた上申書と題した書面を担当者が受け取っているか確認した後、立ち去った。

第3 被告の主張

本件処分は、前述の経過のとおり適法に行われていることは明らかなところ、原告は綾々独自の見解に基づき本件処分が違法である旨主張する。

以下、被告は本件処分の適法性について主張する。

1 交通規制について

原告の主張は、判然としないものの、要するに、本件速度違反場所におけるいわゆる「実勢速度」と最高速度規制が著しく罪離しているため、そのような最高速度規制自体は、無効であり当該規制を前提として取締りを行った本件速度超過違反行為は、違反行為としては成立しないと主張したいものと思われる。

しかしながら、本件速度違反場所の最高速度規制は、交通規制基準(乙第10号証)に従い、適正に設定されたものであるため、原告がいかに論弁を弄しようとも原告の主張には理由がない。
以下詳述する。

(1)交通規制の基本事項

ア 意義

交通規制とは、都道府県公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、又は交通公害その他の交通に起因する障害を防止するため、政令で定めるところにより信号機又は道路標識等を設置し、及び管理して、交通整理、歩行者又は車両等の通行を禁止・制限し又は通行方法の指定を行い、交通のルールを設定する行政行為である。

イ 目的

道交法第4条第1項は、「都道府県公安委員会は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、信号機又は道路標識等を設置し、及び管理して、交通整理、歩行者又は車両等の通行の禁止その他の道路における交通の規制をすることができる(以下省略)。」と規定している。
すなわち、都道府県公安委員会が行う交通規制の目的は、

○「道路における危険を防止するため」

○「交通の安全と円滑を図るため」

○「交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため」

であることが定められている。

ウ 交通規制の実施機関

道交法に基づく交通規制の権限を有するのは、原則として都道府県公安委員会であるが、都道府県公安委員会の委任を受けた警察署長は一定範囲の交通規制を行うことができ、また、個々の警察官は道路における危険を防止するため緊急の必要があると認めるときは一時的に交通規制を行うことができる。
実施機関別にみると次のとおりとなる。

○都道府県公安委員会が行う交通規制(道交法第4条第1項)

○警察署長及び高速道路交通警察隊長並びに交通機動隊長が行う交通規制(道交法第5条第1項、同法第114条の3,施行令第3条の2)

○警察官が行う交通規制(道交法第6条第4項)

○道路管理者等が行う交通規制(道路法第46条、同法第47条第3項、

道路運送法第68条第3項)

エ 都道府県公安委員会が行う交通規制

都道府県公安委員会は、道交法第4条第1項の要件に該当し、必要があると認めるときは交通規制を行うことができると定められている。また、同条第2項は、「前項の規定による交通の規制は、区域、道路の区間又は場所を定めて行なう。この場合において、その規制は、対象を限定し、又は適用される日若しくは時間を限定して行うことができる。」と定めている。

(2)本件最高速度について

原告が、本件速度超過違反行為を犯した本件速度違反場所は、公安委員会の意思決定日を平成16年5月14日、場所を横浜市鶴見区上末吉5丁目9番13号先から同神奈川区菅田町2,967-1先まで延長距離約8,100メートル、路線名を横浜市道環状2号線、対象を車両(緊急自動車、原動機付自転車、牽引1,牽引2及び牽引3を除く。)、最高速度を50キロメートル毎時、管轄警察署を港北警察署他2署とする公安委員会の意思決定に基づき設置されていた(乙第11号証)。
この公安委員会による意思決定は、前述した道交法第4条第1項に基づきなされたものであるが、その際には「交通規制基準」(乙第10号証)を準拠して意思決定がなされたものである。
そこで、この「交通規制基準」の概要について次項で述べることとする。

(3)「交通規制基準」の概要

ア 基準速度

「交通規制基準」における規制速度の決定方法については、一般道路について、その状況に応じて基準速度を設定した上で、これを最大限尊重しつつ、いくつかの補正要因等を参考にして規制速度を決定することとしている。

例えば、一般道路(市街地)における基準速度は、4車線以上で中央分離帯がある場合(本件速度違反場所がこの条件に合致する)で、歩行者交通量が多い場合は、基準速度50km/hとし、歩行者交通量が少ない場合は601mm/hを基準速度に設定することとしている(乙第10号証)。

イ 基準速度の補正要因

基準速度一覧表で設定した基準速度を最大限尊重しつつ、下記の補正要因の例示を参考にし、現場状況に応じた補正を行い、原則として基準速度から±10キロメートル毎時の範囲で規制速度を決定する。

なお、この場合において、現行規制速度が実勢速度(85パーセンタイル速度)と乗離(おおむね20キロメートル毎時以上)している道路においては、適切な規制速度となるように検討することとされている(乙第10号証)。

また、補正要因の例示については乙第10号証のとおりである。

ウ 本件速度違反場所の最高速度が規制実施基準を充足していること

本件速度違反場所の最高速度は、50キロメートル毎時と公安委員会が意思決定している。

その前提となるのが、本件速度違反場所が市街地であること、車線数が4車線以上であること、中央分離帯があること及び歩行者交通量が多いこととなっている。

以下、前記項目が充たされていることについて詳述する。

(ア)市街地であること

平成22年国勢調査人口集中地区境界図(乙第14号証)を見ると本件速度違反場所は、明らかに人口が集中し市街地であることは明らかである。

(イ)車線数が4車線以上あり、中央分離帯が設置されていること

本件速度違反場所が、4車線以上あり、中央分離帯が設置されていることは当該場所付近を撮影した乙第12号証によって明らかである。

(ウ)歩行者交通量が多いこと

乙第16号証の横浜市道環状2号線新横浜駅入口付近における歩行者の交通量は、平成19年当時、12時間調査した結果、29,075人であり、歩行者の交通量が多いとされる基準値である701人/12h以上を充たしていることは明らかである。

(工)速度規制の補正要因について

補正時の観点としては、

・安全性の確保

・生活環境の保全

・道路構造

・沿道状況

・交通特性

を勘案することとなっている。

以下、前記事項の該当性について詳述する。

本件速度違反場所が交通事故の発生が横浜市道環状2号線における他の地区と比べて多いことは乙第15号証のとおりであり交通の安全が確保されているとは言い難い。

また、生活環境についても、本件速度違反場所は新横浜駅前であり、人家、商店が多いことも明らかである。

さらに、本件速度違反場所は、横浜市道環状2号線であり、沿道への出入口が多く、また交差点の間隔も短く、乙第16号証のとおり、歩行者、自転車の交通量が多いことも明らかである。

以上のとおり、本件速度違反場所の最高速度規制が「交通規制基準」に準拠して適正に決定していることは明らかである。

2 本件速度違反場所における最高速度の指定には何ら違法性がないこと

(1)以上述べてきたことから明らかなように、公安委員会が、本件違反場所における50キロメートル毎時と指定したことには、十分な合理性があり、何ら違法性がないことは明らかである。

(2)ところで原告は、訴状9頁以下で繕々自説を展開しているところ、その趣旨は必ずしも判然としないものの、要するに、本件違反場所における最高速度の指定が違法ないし無効であると主張したいようであるが、その一方で原告は、施行令第11条に定める法定速度に係る規定についても綾々自説を展開しており、その違法性をも主張したいようである。

しかしながら本件速度超過違反行為は、本件速度違反場所における「(公安委員会が意思決定した)最高速度」を超過したことを違反行為とするものであって、施行令第11条に基づく「法定速度」を超過したことを違反行為とするものではないから、施行令第11条に定める法定速度に関する原告の主張は、本件訴訟とは無関係の無意味な主張と言わざるを得ない。

(3)また原告の主張の中には、「交通規制基準」に関しても言及している部分もあるので、この部分について善解するならば、原告としては、この「交通規制基準」の内容が違法ないし無効なものであり、これに準拠して公安委員会が意思決定した本件速度違反場所における最高速度の指定も違法ないし無効である旨を主張したいようにも思われるが、第3.1(2)及び第3.1(3)で前述したとおり、「交通規制基準」とは、交通規制に関する具体的な意思決定を行う公安委員会を拘束するものではなく、公安委員会が交通規制に関する意思決定をする際に参考とされるべき基準にすぎないのであって、最終的には、公安委員会が、当該道路の具体的状況などを踏まえて、その裁量権に基づいて意思決定を行うものであるから、原告がいくら「交通規制基準」自体を論難しても、そのような原告の主張も、本件訴訟とは無関係で無意味な主張と言わざるを得ない(そもそも「交通規制基準」の内容が、原告の見解と異なるとしても、そのことから直ちに「交通規制基準」が違法ないし無効なものになるはずもない。)。

(4)その上で原告の緩々述べている内容を検討しても、本件速度違反場所におけ
且る最高速度を50キロメートル毎時と指定した公安委員会の決定が、いかなる具体的理由により、同委員会の裁量権の範囲を逸脱して違法ないし無効なものとなるのかについては、原告はほとんど何も主張していないと言わざるを得ない。

敢えて言うならば、原告は、本件速度違反場所について「歩行者が出てくる危険性もない道路」と述べているので、この点を根拠に、公安委員会の決定はその裁量権を逸脱していると主張したいようにも思われるが、しかしながら、平成25年6月14日午前2時57分ころ、横浜市港北区新横浜2丁目1番8号横浜市道環状2号線、つまり、本件速度違反場所付近において、軽乗用車と歩行者の人身交通事故が発生し、歩行者の男性はこの事故によって死亡している(乙第17号証)。

そして、取締りワーキンググループ検討結果(甲第49号証)7頁に記載されているとおり、自動車の走行速度が30キロメートル毎時の致死率が約10%なのに対し、50キロメートル毎時の致死率は80%以上に跳ね上がるのである。
このような観点からも、本件速度違反場所の最高速度を50キロメートル毎時と規制していることに合理性があるといえ、また、実際に交通死亡事故が発生している本件速度違反場所における速度取締りは、交通事故を抑止する見地からも必要かつ合理的な理由がある。

第5 結語

以上のとおり、本件処分は法令の規定に基づき適法かつ適正になされており、原告の請求には理由がないことが明らかであることから、直ちに棄却されるべきである。

執筆者プロフィール

野村 一也
ライター
 創世カウンシル代表

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