多発する警察官の拳銃自殺
この記事は、模倣自殺の防止(2次的対応)よりも、抜本的な自殺防止を優先します。抜本的な自殺防止とは、自殺した故人がなぜ死を選んだかを明らかにすることにより、自殺の原因(多くの場合いじめ)を取り除くことです。そうすることによって、同じような悲劇を未然に防ぐことが可能となります。
そのために、自殺という言葉、自殺に用いた手段、自殺が発生した場所に関する描写を、改変せず、そのまま残します。
警察は閉鎖されたピラミッド型組織
公安委員会を盾にすることで、外部(民主的な政治)を遮断し、官僚が地方自治を牛耳って運営されるピラミッド型の巨大組織が日本の警察組織である。軍隊と同じ厳格な階級制度で内部統制が行われ、ほとんどの警察官が生涯を一警察官として終える覚悟で働いている。それらを統制する権限は、ピラミッドの頂点にいる警察庁長官に集約されている。
軍隊同様の階級制度と規律の徹底
いさましい軍歌(陸軍分列行進曲)の下、機動隊が訓練の成果を警視総監に披露する式典。一糸乱れず行進する様は、規律が厳格視されていることがうかがわれる。
文民統制できない警察組織
軍隊は「戦力」、警察は「警察力」を行使できる実力組織である。軍隊は国外、警察は国内の有事に対応するが、どちらもの国家体制の存立を担保する強制装置であることに変わりはない。ただし、国家との指揮関係において、軍隊(自衛隊)と警察の間には大きな違いが存在する。
軍隊(自衛隊)
世界には軍隊主導の軍事政権が多々存在し、日本でも軍隊のクーデター未遂事件が起きている。それゆえ、軍隊に対しては、 シビリアン・コントロール(文民統制) あるいは議会支配といった言葉で、民主的にコントールする必要性が一般に認知されている。
現実として、自衛隊の指揮権は、内閣総理大臣と防衛大臣(国務大臣)にあることが自衛隊法第2章に明文化されている。
警察
一方、警察に対し、 内閣総理大臣は平時の指揮権を持っていない。国家公安委員会が介在するからだ。国家公安委員会の長であるはずの国家公安委員長(国務大臣)も警察を”管理”をすることはできない。つまり、警察組織に対し、シビリアン・コントロール(文民統制)が及んでいるとはいい難いのである。
軍隊と同じ実力組織の警察にシビリアンコントールが働いていないことは、警察が暴走するリスクをはらんでいる。
マフィアと同等のガバナンス
警察組織のガバナンスの特徴として、「服従の掟」と「沈黙の掟」とを挙げることができる。「服従の掟」とは、上位構成員には完全に従うということを意味し、また、「沈黙の掟」とは、組織内部のことを決して外部に漏らしてはならないということを意味するものである。もし、上位構成員の命令に従わなかったり、また、警察内部の問題を外部に漏らしたりするなどして、これらの掟に背いた場合には、陰湿なイジメが行われる。これらの掟の存在により、警察組織の問題解明は非常に困難なものとなっている。
上の文章は、警察庁が海外の組織犯罪の状況を示した文章中の「マフィア」を「警察」に置き換えたものだ。(原文:平成1年警察白書 > 第4節 海外の組織犯罪の現状と対策)
なお、掟(おきて)とは不文律が常だ。マフィアも警察も 「服従の掟」と「沈黙の掟」 を額縁に入れて飾っているわけではないのである。つまり、内部管理を徹底させる手法をシンボル化するために「服従の掟」や「沈黙の掟」という言葉が使われているに過ぎない。
なぜ警察官は組織のなかでけん銃自殺をするのか
- 「沈黙の掟」を破った警察OB
- 当時、退職警官の暴露情報はいくつもあった。そのなかで、北海道警察たたき上げながら警察署長を務めたOBの原田宏二氏は、警察署長時代の実体験として裏金作りを生々しく暴露し、注目を集めた。
原田宏二氏は、警察の鉄壁な内部管理体制を「鉄のピラミッド」と記している。鉄のピラミッドのなかで、どうやらマフィアのような粛清は行われていないようだ。しかし、後述する自殺した警察官らの遺書には、陰湿ないじめの存在が示されている。
ここでまず、どれほど多くの警察官が、警察の建物内で、組織から貸与された拳銃を使い、自分の頭を打ち抜いて自殺したのか、2006年以降の自殺警官らの傾向を確認したい。
2023年は5月までに7人が警察関係施設内で自殺
日付 | 都道府県 | 発生場所 | 当事者 | 手法 | 態様 |
20230514 | 警視庁 | 男性巡査長(30台) | 13階から飛び降り(拳銃自殺ではないが参考まで) | 新宿警察署庁舎 | 自殺か |
20230505 | 警視庁 | 首相官邸敷地内のトイレ | 第4機動隊員の男性巡査(25) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺か |
20230323 | 岐阜県警 | 加茂署坂祝駐在所のトイレ | 男性巡査長(26) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺か |
20230320 | 福島県警 | 二本松署の更衣室 | 女性巡査長(34) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺か |
20230208 | 三重県警 | 四日市北署3階トイレ | 20代の男性巡査 | 拳銃で頭部射撃 | 自殺か |
20230127 | 警視庁 | 部隊近くのトイレ | 機動隊の男性巡査部長(39) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺か |
20230116 | 警視庁 | 高島平署5階の男性用トイレ | 巡査部長(40) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺か |
20220927 (安倍晋三元首相の国葬当日) |
秋田県警 | 機動隊の隊舎(秋田市新屋勝平台) | 県警機動隊の男性巡査長(29) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20211211 | 警視庁 | 光が丘署三原台交番2階 | 地域課男性巡査長(34) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20210918 | 静岡県警 | 沼津署署内の更衣室 | 警務課警務係巡査部長(45) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20210611 | 福島県警 | 田村警察署の屋上 | 交通課の壱岐明日真巡査(21) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20210217 | 茨城県警 | 牛久署5階のトイレ | 自動車警ら隊の男性巡査長(29) | 拳銃自殺 | 自殺 |
20201114 | 兵庫県警 | 自宅集合住宅 | 兵庫警察署地域課の50歳の警察官 | 飛び降り | 自殺 |
20201012 | 警視庁 | 目白署地下倉庫 | 40代の男性警部補 | 未発表 | 自殺 |
20201009 | 長崎県警 | 自宅 | 佐世保署交通課の警部補(41) | 遺書残し自殺 | 自殺 |
20200708 | 警視庁 | 千代田区富士見の路上 | 第5機動隊男性巡査長巡査長(25) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20180411 | 滋賀県警 | 彦根署河瀬駅前交番 | 地域課巡査(19) | けん銃で同僚を射殺 | 他殺 |
20170606 | 福岡県警 | 自宅 | 通信指令課中田充巡査部長(38) | 絞殺 | 他殺 |
20160724 | 警視庁 | 原宿警察署野敷地内 | 生活安全課警部補(37) | 飛び降りか | 自殺か |
20161119 | 愛知県警 | 瀬戸署内拳銃保管室 | 交通課巡査長(37) | 拳銃で頭部射撃 | 意識不明の重体 |
20160312 | 神奈川県警 | 泉署1階男性トイレ | 地域課の古関耕成巡査(25) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20150124 | 大阪府警 | 交際相手の自宅集合住宅 | 阿倍野署巡査長(26) | 絞殺 | 他殺 |
20151006 | 兵庫県警 | 機動隊の独身寮内 | 機動隊木戸大地巡査(24) | 首吊り | 自殺 |
20150928 | 兵庫県警 | 機動隊の独身寮内 | 機動隊山本翔隊員(23) | 首吊り | 自殺 |
20150904 | 埼玉県警 | 資産家宅 | 地域課中野翔太巡査部長(31) | 絞殺 | 他殺 |
20151027 | 千葉県警 | 船橋署法典交番裏の空き地 | 地域課山田泰士巡査(29) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20140413 | 埼玉県警 | 蔵前署の関口卓弥巡査(24)宅 | 田無署間宮陽子巡査(24) | 腹を刺され死亡 | 2人とも死亡 |
20140215 | 警視庁 | 蒲田署1階の男子トイレ | 地域課角田芳樹巡査長(44) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20130226 | 千葉県警 | 東金署東金駅前交番 | 西村高一巡査部長(56) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20120319 | 千葉県警 | 流山署地域課の男性巡査 | 地域課巡査(19) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20110917 | 岩手県警 | 盛岡西署の1階男子トイレ | 地域課の藤川亨警部補(32) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20101029 | 愛知県警 | 中警察署内 | 地域課米山雄司巡査 | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20090406 | 福岡県警 | 若松署内拳銃保管庫 | 総務課の男性警部補(30代) | 拳銃で頭部射撃 | 意識不明の重体 |
20080210 | 栃木県警 | 真岡署益子交番の2階トイレ | 地域課の柏倉盛行巡査長(27) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20080712 | 広島県警 | 因島署三庄北駐在所の車庫 | 巡査部長男性(56) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20080708 | 京都府警 | 三山木交番のトイレ | 田辺署地域課の本間隆章警部補(55) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20080425 | 千葉県警 | 成田空港敷地内の警備事務所トイレ | 成田国際空港警備隊松井伸幸巡査(25) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20080424 | 神奈川県警 | 加賀町署3階の更衣室 | 刑事課の巡査部長(51) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
20071219 | 警視庁 | 丸の内警察署東京駅前交番 | 大西泰正巡査部長(36) | 拳銃で頭部射撃 | 死亡 |
20071213 | 栃木県警 | 真岡署益子交番の2階仮眠室 | 地域課の巡査(23) | 拳銃で腹部射撃 | |
20070821 | 警視庁 | 被害女性宅 | 地域課巡査長 | 銃撃 | 2人とも死亡 |
20070722 | 埼玉県警 | 警本部地下1階の男子トイレ | 県警機動隊の男性巡査(23) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺か |
20070604 | 島根県警 | 出雲署一階の女性用仮眠室 | 地域課勤務の女性巡査長(25) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺か |
20070118 | 福岡県警 | 博多署6階の資料室の窓から転落 | 博多署中洲特捜隊の男性巡査(28) | 飛び降り | 死亡 |
20060611 | 福島県警 | 田村署の屋上 | 壱岐明日真巡査(21) | 拳銃で頭部射撃 | 自殺 |
2006年以降に発生した警官の自殺と他殺
警察組織から貸与された銃を使って、警察組織内に血肉と脳髄をまき散らして死ぬことが、警察組織に対する抗議の自殺であることは明白だ。遺書の有無にかかわらず、後始末に多大な迷惑をかける死に方を選んだこと自体が、最大で最後の抵抗だったのだろう。
遺書により、組織内でのいじめが発覚し、遺族が国家賠償を提起したケースも存在する。
このように衝撃的な自殺の頻発が常態化してるにもかかわらず、警察組織自らその原因と向き合った形跡はない。遺族が裁判で争ったケースで露呈しているのは、警察組織の隠ぺい体質である。
「服従の掟」と「沈黙の掟」 を示す証言
ところで、前出の原田宏二氏は、警察組織の問題を次のように指摘している。
最大の権力機関である警察をチエックするべき機関が機能していないこともその大きな原因であるが、鉄のピラミッドとも称される警察の鉄壁な内部管理体制があったから、長年にわたり隠蔽できたのであり、現在に至るもその実態が解明できないのである。
陳述書 平成18年8月11日 原田宏二
この内部管理体制を支えているのは、階級制度である。警察官の階級は、上は警視総監から下は巡査まで9つの階級がある。上位の階級にある幹部と部下の関係は絶対服従の上下関係にある。その指示は絶対であり、下意上達の道は閉ざされている。その上、警察官には労働基本権は認められていない。「崇高な治安維持の使命のために」という大義名分の下に、金くれ、物くれ、休みくれの要求は、タブー視されている。なかでも、警察の最大の恥部、裏金システムの存在を口にすることは、警察組織から排除されることを意味している。
原田氏の指摘は、「服従の掟」と「沈黙の掟」 といえるルールが警察内部で運用されていることを示している。同時に、警察組織とマフィアのガバナンスが同等であることを肯定している。
警察不祥事の多発/変わらぬ警察
警察発表のウソが次々に露呈した世紀末
1999年10月から年末にかけて、桶川ストーカー殺人事件と栃木リンチ殺人事件が発覚した。いずれも、警察の捜査の問題があったこと、警察発表と現実が異なっていたことなどから、大きな批判がおこった。
2000年2月には、新潟で「9年2か月前に行方不明になっていた少女が保護された」という衝撃的なニュースが報道された。
新潟少女監禁事件においても、保護されたとき状況が警察発表のウソが次々と発覚したことが、警察批判を増長した。また、少女が発見された当日、県警本部長が報告を受けたにも関わらず、関東管区警察局長とホテルで接待を継続していたことが発覚し、警察批判はさらに膨張した。
さらには、本部長は、自ら責任を取る意思がなく、麻雀では「図書券を賭けた」という白々しい釈明が世論の批判に油を注いだ。そうして、国民の警察不信は頂点に達した。そして、警察の抱える問題点を議論するために有識者からなる『警察刷新会議』が発足した。
その後も全国的な裏金・不正経理疑惑が次々に発覚
裏金・不正経理疑惑は、「警察刷新に関する緊急提言」後の発生した。
2003年の北海道警を皮切りに、埼玉県警(2004)、愛媛警察(2005)、岩手県警・千葉県警(2008)、滋賀県警(2009)、福井県警・広島県警・山形県警(2010)で発覚した。
- 「服従の掟」と「沈黙の掟」を同時に破った現職警察官
- 当時愛媛県警の巡査部長であった仙波敏郎氏は、現職の警察官でありながら、記者会見で県警の裏金作りを暴露した。愛媛県警は、仙波氏を閑職に異動させた。仙波氏は組織に留まり、国家賠償請求を起こした。のちに裁判所は仙波氏の異動が不当であったことを認めた。
- 仙波死の異動が「服従の掟」と「沈黙の掟」を破ったことに対する組織の報復人事であることを否定する人はいないはずだ。
「警察刷新に関する緊急提言」は骨抜き
「警察刷新に関する緊急提言」のなかで、組織中枢に改革を求めた箇所は「第5 公安委員会の活性化を」ただひとつである。そして提言は、公安委員会の警察に対する『管理(警察法5条4項)』を「大綱方針を決めること」と定義した。これによって、公安委員会の権限は大きく制約されたことになるが、上級行政庁としてのタテマエはそのままとされた。
「大綱方針を決めること」 とは、「個別具体的な判断をしないこと」に一致する。つまり、公安委員会に一般的な意味での管理者権限はない。それなのに、警察法上では 『管理』 をしていることになったのである。
アンタッチャブル
警察刷新会議の最終提言から10数年が経ったが、いまだ、警察庁にも都道府県警察本部にも、公安委員会の独自スタッフはひとりも存在していない。それどころか、専用の電話回線さえ保有していない。公安委員会に電話をしても、電話に出るのは公安委員会に管理されているはずの警察官である。
警察を管理するはずの公安委員会の事務を、管理されているはずの警察官が行っているのだから、まるでブラックジョークだ。
組織的な裏金づくりを警察は最後まで認めなかった
裏金疑惑は、全国の警察で、より中枢に発生した組織犯罪の疑惑である。それゆえ、上掲3つの事件以上に抜本的な対策が必要であった。しかしながら、警察庁は、裏金・不正経理疑惑を組織全体の問題として認めなかった。だから、原因解明もしていないし、防止策も講じられていない。また、裏金疑惑の前に提言された「警察刷新に関する緊急提言」の効果がレビューされることもなかった。
そして大衆は、経済犯罪にあまり興味を持たなかった。やがて、裏金・不正経理疑惑の追及もフェードアウトし、改革を求める声も次第に風化した。
変わらぬ警察の中で増加する拳銃自殺
そして現在、警察組織は、不祥事が多発していた頃と同じ組織構造、同じガバナンスで動いている。そこで発生する壮絶な拳銃自殺は、警察組織に絶望した警察官らが、命を引き換えに為した内部告発といってよいだろう。
月刊 The News を編集・発行しております河原と申します。
ここ数ヶ月、弊紙に於きましては「袴田事件」「大川原化工機事件」「木原事件」などを特集しております。
これらの事件を記事にして、つくづく実感することは「警察庁及び警察組織の腐敗」「国家公安委員会の機能不全」です。
このサイトの内容はその点で大変参考になりました。弊紙11月15日発売号「木原事件考察・第二弾」に、出典明記の上で内容の一部を記載させて頂きたく、ご連絡申し上げます。
港区三田3−2−13−106 The News 編集長 河原龍三