飲酒運転=危険ではない
民間企業の「嘘・大げさ・紛らわしい広告」は、JAROに審査され、該当すれば指導を受ける。
一方、各省庁が発する国としての「広報」に審査はない。
ここでは、飲酒運転の危険性を過剰にアピールする警察広報を題材にして、「広報」の問題点を指摘する。
なお、飲酒運転に対しては、酒気帯び基準の引き下げを始め、度重なる法改正(厳罰化)が行なわれた結果、かえって悲惨なひき逃げ事故が頻発している。
それなのに、飲酒そのものが悪とされ、違反者への攻撃を煽るような報道ばかりがなされるため、誰もその問題を指摘することができない。そして、ひき逃げ事故は増加の傾向を示し、さらには、欧米で容認されているレベルの酒気帯び運転が発覚しただけで免職にするしない、といったニュースが繰り返される異常事態(飲酒運転クライシス)が発生している。
飲酒運転の危険性をアピールする警察庁の根拠
飲酒運転は各国共通の問題なので、アルコールが運転に与える影響に対して、他国の研究者らによる多くの研究が存在する。それらは、学術的に体系化され、政策を検討するために共有されている。
一方、警察庁が「アルコールは“少量”でも危険!」とする広報は、これら国際的な学術ベースの研究を参考にしていない。そして、極めて少数を対象にした警察庁の委託研究だけが根拠となっている。
次の図は、Maycockが2007年に発表した研究記載された図表(ヨーロッパ安全評議会の研究(pdf)より抜粋)に、警察庁の委託研究の範囲を投影したものである。
なお、アルコールが運転に与える影響に関する2007年のMaycockの研究は、多くの国の研究者らに評価されている。
図表の横軸は、血中アルコール濃度を示し、縦軸は関連リスクを示している。なお、日本で主たる指標となる呼気中1リットルあたりのアルコール濃度と、血液1ミリリットル中のアルコール濃度は、血中濃度(mg/ml):呼気濃度(mg/l)≒2:1と簡易計算ができる。図中0.3BAC(g/l)は0.3(mg/ml)であり、日本で酒気帯び運転違反の下限となる呼気中濃度0.15(mg/l)と同等である。
そして、上図中の赤枠に示した通り、警察庁が関係機関に依頼した実験[1]は、極めて低レベルのアルコール値だけが対象とされている。実験結果の抜粋を次の図に示す。
上の図で、平均反応時間の項が千分の1秒単位、下の図では百分の1の単位で示されていることに着目して欲しい。
実験の目的は、交通事故につながる可能性を検証する目的である、それなのに、まるでアスリートの反射速度をテストするかのように、コンマ01秒単位の違いを挙げて、交通事故につながる可能性にこじつけているのである。
脚注
- 警察庁が関係機関に依頼した実験
警察庁のサイトのなかで、飲酒運転に関する扉ページ(みんなで守る「飲酒運転を絶対にしない、させない」)、「飲酒運転はなぜ危険か?」の【参考資料】(1)(2)は同等の実験である。(1)は体裁のレベルが極めて低く、(2)は文字だけでとてもつまらない。そもそも、(1)(2)とも責任者の名前すら記されていない。そこで、同等の実験を見やすく体裁が整えられたITARDA・インフォメーションNo.72より、要所の図表を本文中に抜粋した。