姑息な規制緩和
2016年3月24日、高速道路の時速120Km規制を警察庁が容認することを決めた、とのニュースを日経新聞や共同新聞などが報じた。この報道は概ね好意的に受け取られているが、警察庁のwebサイトにそうした発表や広報の類は存在しない。
なぜ警察庁が自ら広報しようとせず、記者クラブを通じた報道に留めているのか、冷静にこの報道を分析してみよう。
新東名の速度規制に対する失望
2012年以降、段階的に共用が開始された新東名高速道路は、設計速度が時速140kmである。それにもかかわらず、警察庁が時速100kmを固持したことに対し、失望の声が多方面からあがっていた。
なお、新東名高速道路は、道路構造令上において第1種第1級の区分に属する。同区分は設計速度が120kmとされているが、新東名高速道路は、構造的には時速140kmでの走行を前提として設計されていた。それなのに、警察庁が時速100km規制の堅持を譲らないため、国土交通省はわざわざ車線を減らす工事を行い、時速100kmでの共用が行われている。
規制緩和ではなく、可能性を示唆しただけの報道
日経新聞や共同新聞の報道を読む限り、新東名高速道路をはじめとした特定の道路に限って例外を認める、といった程度のものに過ぎない。道路交通法施行令第27条で時速100kmとされた規定を見直すものではないのだ。つまり、原則を時速100kmとしたままで、都道府県公安委員会(=警察)の取り計らいによって、それを超えることができる可能性が示唆されたに過ぎないのである。
まるで高速道路の速度規制が次々に緩和されるかのように期待させる報道とは裏腹に、現実として警察庁の子会社となっている都道府県警察が自発的に時速100kmを超える道路を制定することはありません。その根拠は後述する。
絵空事が少し現実に近づいた程度の規制緩和
速度規制の緩和については、2009(H21)年2012(H24)年までの3年間において、全国規模で規制速度の引き下げが行われている。>>規制速度の見直し状況
そのほとんどは、片側2車線以上なのに時速40kmに規制された道路が、時速50km規制に見直された程度だ。東京の環状7号線に代表されるように、誰もが「なんで?」と首を傾げていた道路が、少しだけ現実に近づいた程度の緩和ばかりなのである。
時速40キロから時速50キロ規制に変更された環七
この時の速度規制緩和において、警察庁は、公安委員会の判断によって法定速度である時速60キロを超えた規制を行えるようになったことを強くアピールしている。しかしながら、実際に時速60キロを超える規制速度が実現したのは、全国で9路線に過ぎない。そして、9路線はすべて地域高規格道路である。>>2009(H21)年2012(H24)年までの具体的な見直し状況
そして、今回の高速道路に関する緩和も、この時に一般道路に対して行われた規制緩和とまったく同じである。
そもそも自動車専用道路には例外が多数存在する
ちなみに、道路交通法施行令第11条によって、時速60kmと規定されている首都高速などの自動車専用道路は、例外的に時速80キロまでが認められている。
信じられないかもしれないが、時速100キロ超のクルマが当たり前のように流れている首都高湾岸線と阪神の湾岸線は、道路交通法施行令第11条の適用を受ける時速60キロ規制の道路である。それが都道府県公安委員会(=警察)の取り計らいによって、時速80キロとなっているのである。
これら2つの湾岸道路を筆頭に、自動車専用道路には数多くの例外がはるか昔から存在している。今世紀になってから警察庁が緩和をアピールし始めたのは、速度規制の緩和を求める声が大きくなっているからだろう。
根本的な問題は道路交通法施行令にある
警察庁が姑息な方法で規制緩和をアピールしていることはさておき、現実と規制との乖離が大きく、取締りへの不満が高いのは、地域高規格道路である。
そして、道路交通法施行令において、財政の都合で高速道路になりそこねた立派な道路から、生活道路までが、一緒くたに「高速自動車国道の本線車道以外の道路」として規制されている。
そもそも日本以外の国では、道路の設計と規制は同じ行政機関が担っている。もしも欧米諸国と同様に、国交省が速度規制の事務を担っていたなら、新東名は少なくとも時速120km規制となっていたはずだ。
現実離れの速度規制が続くのは、警察が規制と取締りによって、存在価値をアピールをしようとするからである。
警察庁の姑息な手段に騙されるのではなく、警察庁と国土交通省の縦割り行政の下、お互いが自分の縄張りで仕事を進めることによって、一向に総合的な道路行政が行われない現実を嘆きたい。
また、法定速度(道路交通法施行令上の速度規制)を、警察官僚が50年以上も変えずに据え置いていることの妥当性を考えて欲しい。
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