控訴審公判2回目

検察が請求(証拠として採用してもらうために裁判所に提出)した証拠の認否について、弁護士と折り合いがつかぬまま、公判当日を迎えた。折り合いがつかないのは、私が刑事訴訟法における証拠の取扱いに理解が不足しているからだ。逆に言えば、証拠の取扱いこそが刑事裁判のツボであり、私に限らず、法曹関係者以外の人にとっては、理解に苦しむ難関だ。

「じゃあ、先生にお任せします」と決して言わない私に対し、弁護人は「野村さんが自分で言えばいい」と半ば投げやりに提案したことから、刑訴法388条にかかわらず、控訴審で被告人が発言できることを知った。

東京高等裁判所第2回当日、私は、開廷の10分ほど前に入廷すると、既に弁護人は席に座っていた。私は、大島隆明裁判長が求めた超音波感知器の速度データを収めたDVD(2530)を弁護人に渡した。

電話での打ち合わせにおいては、前述の証拠の認否以外の理由で「(弁護を)辞めますか?」と私が突っ張ったこともあって、よそよそすること数分、やがて裁判官らが入廷した。

≪以下、記おくに残る要所を再現≫

裁判長:被告人請求の2530については、正確性については争わないということでよろしいですか?

検察官:(同意)

裁判長:これは採用いたします。24から32は調べることにいたします。
それから検察官が請求した証拠についてのご意見はいかがでしょうか?

弁護人:1号証については、同意いたします。
以下については、被告人本人から意見させていただいてもよろしいでしょうか?

被告人:結審の直前に出されても、反論もできませんので不同意です。
もし、期日を延ばして反論できるのであれば同意します。

裁判長:2は照会したというだけの証拠なんだけれど。

被告人:セットになっているものなので、それだけ同意しても意味がない。

裁判長:3号証、時速50キロに規制されている具体的な根拠ということで、
その開示請求の後ろの方に添付資料はどうですか?

被告人:反論できれば、同意しても構わない。
結審間際で、何ら弁論できないこの時点で同意することはできません。

裁判長:要するに、弁論したいということですか?
弁論権はないので、弁論というかたちでは出せません。
控訴趣意の補充書というカタチで出していただくことはできます。

弁護人:野村さんのほうで資料として出したいものがあるんですか?

被告人:論理的に説明できる。現場から500メートルも離れた場所のデータを出されても意味がないわけですよ。こんなの言葉だけで理解できるはずです。それは不同意にした方がいいんですか?

裁判長:「意味がない」というのは貴方の主張だから、
それは補充書に書いてもらえばいいんです。

弁護人:5分ほど、休廷いれてもらってもいいですか?

裁判長:はい。
交通量の調査の報告書の内容が誤まっていなければ、公安委員会の資料ですので、これは採用したいと思っております。
照会事項1については、器械の原理が書いてある者で、被告人の出してきたデータもこれに基づいて計算しているわけですから。争うということであれば、それは結構ですので。

≪休廷中≫

被告人:照会事項の1ってなんでしたっけ?

事務官:4号証の1のだと思います。

被告人:それは同意してもいい。でも、この事件の後の事故を持ち出すのはおかしい。

弁護人:それは、補充書だせるということだから、検討して出したらいいんで。
それに資料として証拠を出しても、検察官が同意してくれないと、証拠として出せないわけです。
それに、同意して、それに対して書類を出しても、検察が同意してくれる保証はないですよ。
「それでもいい」っていうんであれば、この場で同意してもいいし…

被告人:どうせ検察の不都合なことは同意しないでしょう。
それはどうでもよくて、自分が言えればいいんです。
補充書というかたちでね。出せればいい。
だってどうせ僕が不同意にしたって、あの刑事訴訟法○上で・・・

弁護人:出てこない

被告人:出てこない?すべて?伝聞だから?

弁護人:今回ね、だから、検察官の証拠に対して、
(書類を見ながら)この人が報告をするわけですよ。
この人が出てきて、ここに書いている内容をしゃべれば

被告人:誰でしたっけ?

弁護人:県警の交通規制課。

被告人:じゃあ、超音波の測定の式、これは認める。ほかは不同意。

弁護人:(事務官に対し)2と4と5。

検察官:(3号証の添付資料の認否を求める)

被告人:不同意です。500メートルも離れたところの交通量もってこられても困るよ。しかも交差点の中の。

≪再開≫

裁判長:それでは再開します。要するに、今日意見を出されるかどうか。

弁護人:1は同意、甲の2号証、3号証は、資料分を含めて全部不同意。4号証は同意。

裁判長:添付の資料の1は、もともと被告人の方から、
ほぼこれに当たるものが出てはいるんですけれども・・・

弁護人:必要であれば、こちらから同じものを請求いたします。

裁判長:検察官の方は、どう考えますか?

検察官:規制根拠について、交通規制の課長補佐を証人として申請したいと考えます。末尾書類等については、尋問のなかで、示しながら尋問したいと考えます。

裁判長:末尾添付だけでは、どうなのかなぁ

検察官:資料の1から6まで全部の末尾添付のことですか?

裁判長:じゃあ、添付資料というところ、こういう交通量だったということについては、証人は経験しているわけではないわけですから、これはどういう報告書なのかとか、これはどういう通達なのかとういうこと事態は、証人に聞くことによって、証言としては出るんでしょうが、その内容自体が証言できるのかというと、それは別の話しになるわけです。そこはどうされます?

検察官:(無言)

裁判長:とにかく、証人を呼ぶということでよろしいですね。

検察官:はい。そのなかで個別に証拠請求をして、不同意であれば323に該当するものを出します。

裁判長:それの個別の証拠を請求できる根拠を考えていただきたい、という趣旨なんですけど。

検察官:はい

裁判長:その課長補佐さんですか、お名前わかりますか?

検察官:馬場広人さん。

裁判長:違反箇所における交通規制の根拠ということでよろしいですか?

検察官:はい

裁判長:時間は?

検察官:30分程度。

裁判長:被告人には弁論権がありませんので、裁判所として、弁論させるというわけにはいきませんが、弁護人が、弁論として、被告人の意見を取り入れたものを出していただければ、それは弁論として認めます。

検察官:5号証の認否が中途半端になっている。

弁護人:5号証が、1ページ目と、それから2ページ目、別添と書いてあるページの、算用数字の2の前まで、は同意いたします。以下は不同意です。

検察官:(被告人側に歩み寄って)照会事項1と別添資料1が一対のものなんで、
この意味を理解するには、この図面がいる。

弁護人:先ほど、甲5の同意と申し上げた部分も含めて、全体的に留保させてください。

裁判長:はい。わかりました。先ほど言った部分は、同意予定ということでよろしいですか?

弁護人:はい。その方向で。

裁判長:じゃあ、12月19日の金曜日。先ほどの証人を採用して取り調べることにいたします。それでは、今日はこれで閉廷します。

≪閉廷後≫

私は、神奈川県警の交通規制課長に私自身が質問することを確認し、弁護人はそれを了承した。

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執筆者プロフィール

野村 一也
ライター
 創世カウンシル代表

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