弱肉強食の取締り
警察広報や公共メディアの報道はさておき、多くの道路で速度規制は絵空事と化している。恐怖に訴える警察広報によって、誰も本当のことが言えず、「公の事実」にならないだけだ。
そして、経験ある道路ユーザーに「(速度違反は)捕まる方がバカ」と言われるのは、速度違反の取締りが、決まった時間帯に、事故が多いとは思えない「いつもの場所」ばかりで行なわれているからだ。
そんな取締りに捕まるのは、警察の漁り場を知らない地元外の者や状況把握力に劣る女性、それから、警察の手口を知らない運転経験の浅い若年者ばかりだ。例えるなら、権力という牙を持つライオンが、シマウマの子供ばかりを狙っているようなものだ。
こうした正義のない速度取締りが行われる原因は、取締りにノルマがあることと、規制速度が低すぎるからだ。
警察のノルマに示すとおり、神奈川県警察は、執行部隊別に違反種別ごとの検挙目標(いわゆるノルマ)を課している。そして、速度取締りは、規制と現実がかけ離れた路線や区間ばかりで行なわれている。ただし、警察が路線毎の検挙数を明らかにしないため、弱肉強食の取締り傾向を立証することはできない。
大きな網と警察力のターゲット
現実を勘案することなく、低い規制速度を設定すれば、危険性の低い運転に対しても、警察力を行使できるようになる。これが大きな網の効果だ。
大きな網によって、可罰的違法性のボーダーラインは押し下げられる。ドライバーが大きな理不尽さを感じる取締りさえ、「法に則っている」という方便がお墨付きとなるわけである。
そうして、車両運転者らは、流れに乗る程度の速度で走行していても、検挙対象とされることになる。
ノルマに追われる警察官は、規制と実態がかけ離れた場所、すなわち、検挙数を稼ぎやすい場所ばかりで取締りをおこなう。
そんな取締りに経験豊富な地元のドライバーとライダーが捕まることはない。また、本当に悪質な交通違反の常習者が捕まることもない。例えるなら、ライオンがシマウマの子供ばかりを狙っていることを知っているガゼルの成獣と同じだ。
そして、権力という牙を持つライオンが、シマウマの子供でお腹いっぱいになるなら、捕獲が困難な大きなヌーや、足の速いガゼルの成獣を、あえてターゲットにする動機は生じない。その結果、検挙が容易な、悪質性の低い違反ばかりが検挙され、悪質性の高い違反は野放しとなる。
社会の問題に関心のない人々
以上のとおり、交通取り締まりで罰せられているのは、大きな網によって悪者にされたシマウマの子供やカモばかりだ。賢い成獣は、ライオンやオオカミの狩りの手口を知っているから、捕獲されることはほとんどない。
そんな弱きをくじくような取締りが事故防止に資することことがないにもかかわらず、「取締りの効果で事故が減った」と大々的に広報し、集めた反則金で天下り団体がボロ儲けしている。
その一方、「交通取締り」が行政行為なのに、常に「犯罪捜査に支障をおよぼすおそれ」を盾にして、具体的な取締りの成果(どこで何を取締ったのか)は秘匿されている。
つまり、刑事司法のシールド下で、阿漕(あこぎ)な金権行政が行われているのである。警察が正義を演じるためのプロパガンダで、悪者扱いされるドライバーとライダーはたまったものではない。
ただし、問題はドライバーとライダー側にもある。「自分は捕まらない」と現状を容認する者が、決して少なくないことだ。権力の牙にかかる弱者を、「捕まるバカ」と笑って見ているのである。