時代遅れの交通管制

日本は情報土木

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ドライバーの不満と警察庁の規制緩和

法定速度争点は速度規制の合理性と取締りの妥当性に示したとおり、この国の法定速度は、他国に比較して極端に低く設定されており、科学的な設定根拠は存在しない。また、85パーセンタイル速度と規制速度の関係に示したとおり、速度違反の取締りは、事故リスクの低い車両を中心に行われている。

当然、道路ユーザーには、速度規制/取締りに対する根強い不満が存在していたが、が言えないこの国で、日の目を見ることはなかった。それが、情報公開制度や、インターネットの普及などによって、次第に影響力を持つようになっていった。そうした道路ユーザーの不満に押されるかのように2009年(H21)10月29日、警察庁は、より合理的な交通規制の推進についてを地方警察に通達した。そこには、次のように記してある。

交通規制は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するために行われるものであるが、実施後の道路交通環境の変化等により現場の交通実態に適合しなくなったものを放置することは、交通の安全の確保等の本来意図した目的が達成できなくなるだけでなく、交通規制全般に対する信頼や国民の遵法意識をも損なうことともなりかねない。

85パーセンタイルへの言及

同時に、警察庁は、速度規制の策定基準を定めた内規「速度規制基準」を改定し、「交通規制基準」の一部改正についてを通達した。「速度規制基準」は2012年(H24)11月までにさらに4回変更されている。2009年(H21)10月29日の改定において、欧米で速度規制の策定指標となっている85パーセンタイル速度を参考にすることを定めた。

ただし、そこには警察庁の定めた基準速度一覧表で定めた数値からプラス10km/hを上限とすることが規定されている。いい替えれば、「速度規制基準」の改定は、高速道路のようなバイパス道路が時速70キロメートルに規制できるようになったに過ぎない。法定速度がほとんどの道路の上限となっていることは、変わらないわけだ。

それ以前の問題として、争点は速度規制の合理性と取り締まりの妥当性で触れたとおり、「速度規制基準」に明文化された基準速度の根拠は太田報告書であり、そこで用いられた手法は、統計学的公正さを欠いたデータを根拠にしているおそれがある。また、算定プロセスの科学的合理性については、瑕疵があると言わざるをえない。

ここからは、統計学的公正さを補完する手法を検討したい。

現実的な速度データ

太田報告書については、速度を調査した道路の所在する都道府県や、具体的な道路名に一切触れられていないことから、不当に条件の悪い道路ばかりをサンプリングしたおそれを既に指摘した。

全国一律で規制するためにサンプリングするのではなく、道路ごとに85パーセンタイルを検討するのに現実的な速度データを、警察はすでに取得している。それも、ほとんどの幹線道路において、リアルタイムにモニターできるようになっている。それが超音波車両感知器の速度データである。超音波車両感知器は、2000 年度末の時点で約 13 万基が設置されており、警察内の交通管制センターを経由して、道路交通情報センターが配信する渋滞情報は、この超音波車両感知器が取得した情報が主体となっている。

fig_vics01速度とは、移動距離を所要時間で割ったものであり、渋滞情報と平均速度は同質のものである。そして、この国の渋滞情報は、高速道路は道路管理者が、一般道は交通管理者(警察)が取得することとなっている。

そして、最終的に道路管理者が取得した情報も警察に送られ、警察の道路管制センターで一元管理されている。

原告は、神奈川県警に対し、本件事件の舞台となった横浜環状2号線のほか、国道357号線と首都高湾岸線に設置された車両感知器を指定し、速度データの公開を請求した。

当初、神奈川県警は、速度と、小型車データが記録されていないことを理由として、露骨に公開を拒否したが、担当を激しく問い詰めて、ようやく公開させることができるようになった。一方、首都高のデータについては、担当者は「データはない」の一点張りであった。

これらの経緯を踏まえると、警察は85パーセンタイルを参考にすると言いながら、パーセンタイル速度の根拠となる実勢速度や平均速度を道路ユーザーに提供する気はないそうだ。

シングルヘッド式超音波車両感知器

そこで、ここからは、ITSによる交通情報を用いた旅行時間推定・予測手法に関する研究を参考にして、超音波車両感知器の速度データについて記す。

シングルヘッド型超音波車両感知器

超音波車両感知器は、自動ドアのセンサーと基本原理は同じである。道路上に設置された車両感知器は、下方に向けて0.05秒(50ミリ秒)間隔で超音波を発信しており、路面で跳ね返ってきた反射波を測定する。通常より短い反射波があると、それをもって車両検知とする。次に路面を検知するまでの時間を車両1台の通過時間とみなすことによって、車両の通過台数と占有時間を測定する。

シングルヘッド式超音波車両感知器は、速度を直接計測することはできないが、大型車の混入率などを勘案した平均車長(図表中Lc)を与えることによって、平均速度を算出することができる。なお、反射波は車両の高さを測定できるので、大型車両とみなす車両の高さを設定すれば、それを除外できる。

ダブルヘッド式超音波車両感知器

ダブルヘッド式超音波感知器

高速道路ではダブルヘッド式超音波感知器が主流となっている。ダブルヘッド式は、ヘッドの間隔(車両の移動距離)と移動時間を測定しているので、正確な速度を算出することができる。なお、2点間の移動時間から速度を算出するという手法は、光電管方式の速度取り締まりで使われる機器と同じである。

シングルヘッドどダブルヘッドの精度差

速度規制基準には次のとおり書かれている。

現行規制速度が実勢速度(85パーセンタイル速度と乖離(おおむね20キロメートル毎時以上)している道路においては、適切な規制速度となるように検討する。

それならば、当然、警察は、何らかの方法でパーセンタイル速度を測定するのだろう。シングルヘッドが導く速度を「速度ではない」と断定する神奈川県警はさておき、シングルヘッド式超音波車両感知器は、一般の幹線道路を網羅している、といっても過言でないほど普及している。だから、それが一定の精度で速度を算出することができるのであれば、警察が適正な規制速度を検討するのに大いに役立つはずだ。

そこで土木学会に発表された田畑らの研究論文オーバーヘッド方式車両感知器のシングルヘッド化に伴う精度検証を参照する。

田畑らは、シングルヘッド式超音波車両感知器の設定を、車高2.1m以上の車両を大型車、それ以外の車両を小型車とし、大型車の車長を10m、それ以外を4.5mとした。フィールドテストにおいて、大型車9.0m、小型車4.0mと設定を変更を行い、ダブルヘッド式超音波感知器との比較検証を行った。その結果、シングルヘッド型は、ダブルヘッド式と遜色のない測定結果が得られた、と結論付けている。

神奈川県警が設置したシングルヘッド式車両感知器は、大型車を除外せず、平均車長を6.4mと設定している。設定は、測定器毎ではなく、一括で変更できるそうだ。それなら、田畑らの設定と同様にすれば、ダブルヘッド式と遜色のない測定ができるはずである。

より高い精度の考察
神奈川県警がより精度の高い設定してくれるとは思えないので、神奈川県警の測定データを田畑らの設定に投影してみた。国土交通省がに実施した交通センサス(2011)によれば、横浜環状2号線の昼間12時間大型車混入率は15.2%である。通過台数は、小型車8,935台、大型車1,601台なので、神奈川県警が設定する平均車長6.4mを掛けると、合計通過車両長は、小型車57,184m、大型車10,246m、合計67,430mとなる。同様に、田畑らの設定、小型車4.0m、大型車9.0mを掛けると、合計通過車長は、小型車35,740m、大型車14,409m、合計50,149mとなる。

合計通過車長だけを比較すると、神奈川県警設定の計算結果は67,430m、田畑ら設定での計算結果は50,149mとなる。このことは、神奈川県警設定は、田畑ら設定よりも平均車長を34%長く設定していることになる。つまり、神奈川県警のシングルヘッド式超音波感知器は、田畑らがダブルヘッドと同等と評価した設定より低い速度が算出されていることとなる。

先に示したとおり、速度とは移動距離を所要時間で割った数値である。平均車長が34%長いということは、移動距離が34%長く計算されていることを意味する。このことは、横浜環状2号線の車両感知器に計算した速度は、田畑ら設定より34%速い速度が計算されていることになる。そこで72.23kmを1.34で割り戻すと、53.90km/hという速度となる。ただし、この速度は50パーセンタイル速度に過ぎない。

なお、本件速度取締り場所には、次の特徴がある。

  • 時間帯によっては渋滞が発生する。
  • 取り締まりの名所なので、通行車両は速度を落としている。
  • 最も速度が速い中央分離帯側が測定対象外となっている。

これらを勘案したうえで、真の85パーセンタイル速度を求めるのは、難儀な作業だ。

交通取締りと道路交通情報の関係

反則金は道路交通情報を収集する資金となっている

公有財産で商売85パーセンタイル速度の勘案材料にするため、原告が情報公開を請求しても、神奈川県警は極めて非積極的であるが、、すべての都道府県警察は、(財)日本道路交通情報センターに対しては、情報提供の大盤振る舞いをしている。そして、(財)日本道路交通情報センターは、民間企業からみると、儲かり過ぎて笑いが止まらないビジネスモデルを独占している。

原告は、今から15年ほど前に反則金の行方という記事をまとめ、現在もそれは公開している。その記事では、交通取締りによって、一旦、国庫に収められた反則金は、各都道府県に交通安全対策費として還元されることを示している。、その使途としては、道路標識・道路標示・信号器しか挙げていない。しかしながら、ドライバーとライダーが支払った反則金は、前述の車両感知器とそのネットワーク、そして集められた交通情報を処理する交通管制センターにも流れている。

なお、都道府県警察の使う施設費において、最も額が大きいのは、庁舎や交番の維持費ではなく、パトカーやヘリコプターでもなく、交通指導取締費(都道府県によって呼び方は異なる)だ。その中で最も大きな予算となるのが交通管制関連費である。交通管制関連費には、信号器と交通管制センターが含まれており、だいたいでいえば半々くらいだろう。

日本道路交通情報センターは無償で仕入れた情報を売っている

交通管制センター交通管制センターは、各都道府県警察本部内に存在している。前述の超音波車両感知器が集積した道路交通情報は、交通管制センターに送られ、巨大なモニターに映し出される。

交通管制センターには、(財)日本道路交通情報センターが常駐しており、アナウンサーがモニターに映し出される交通情報を読み上げている。FMラジオで30分おきに流れるあれだ。

「坪35万円の木の家、**工務店が提供する道路交通情報です」

このように交通情報が流される前にはスポンサーが紹介される。つまり、FMラジオのリスナーは、広告を聞くことによって、無料で道路交通情報を聞いている。しかし、ラジオ局は(財)日本道路交通情報センターに対し、情報の対価を支払わなければならない。

ちなみに、(財)日本道路交通情報センターの担当者に言わせれば、情報を売っているのではなく、もらっているのは「情報を提供するための維持費」なのだそうだ。なお、交通情報の配信事業者とは、データの受け渡しを伴っているはずであるが、それも財団が「情報を提供するための維持費」と呼んでいるのかどうかは確認していない。放送事業者が欲しているのは、財団のアナウンサーではなく、道路交通情報そのものであるはずだ。だから、ここでは「情報を売っている」という言い方に統一する。

(財)日本道路交通情報センターの収入の柱は、放送事業者に交通情報を売ることであり、2012年度における情報事業収入は、約31億円であった。約31億円という額の大小はさておき、特筆すべきは道路交通情報という商品に対する仕入れが無償であることだ。ドライバーやライダーが支払う反則金が流れ、警察施設費内でもっとも大きな費用がかかっていながら、警察は、道路交通情報を無償で(財)日本道路交通情報センターに提供しているのである。

日本道路交通情報センターに流れるカネ

警視総監の再就職ポスト

(財)日本道路交通情報センターの収入は、それだけではない。なぜか都道府県から道路交通情報提供業務負担金といった名目でも収入を得ている。さらに、(財)日本道路交通情報センターは、各都道府県系本部庁舎に事業所を持ちながら、使用料を1円も支払っていない。

公益の私物化といっても過言ではない状況となのは、(財)日本道路交通情報センターが、警察官僚の最上級の再就職先であり、理事長は、警視総監の有力ポストとなっているからだ。現在の理事長は、第84代警視総監の奥村 萬壽雄(おくむら ますお)氏。奥村氏は、退官後、シャープ(株)監査役、丸一鋼管(株)監査役を経て、(財)全日本交通安全協会理事長、テレビ朝日監査役を勤めた。(財)日本道路交通情報センターの公開文書によれば、報酬月額は150万円、年収にすると1800万である。

不可思議な退職金勘定
公益法人に課された情報公開によって、(財)日本道路交通情報センターの財務諸表は閲覧が可能である。センターの情報公開(平成24年度)から興味深い数字を拾ってみた。

各都道府県警察本部に事務所を持ちながら、家賃(使用料)を払っていないことは、収支計算書とキャッシュフロー計算書で確認できる。それらによると、最大の支出は人件費で23億円だ。収入の方はというと、FMラジオ局などから受け取る情報事業収入が約31億、都道府県からの不可思議な情報提供事業収入が8億円、その他を合計した事業活動収入は約43億円である。事業活動収入の半分以上が人件費となっているわけだ。

貸借対照表をみると、固定資産の合計約40億円のなかで最大なのは、退職給与引当金資産でその額12億円。固定資産に不動産はなく、投資有価証券が10億円(基本財産およびその他固定資産の合計)となっている。

ところで、(財)日本道路交通情報センターの公開文書によれば、理事長の報酬月額は150万円と定められている。退職金の規定は、昨今の天下り、渡り批判もあって、ずいぶんと低い額にしかならない。そこで原告が平成10年に取材しまとめた記事ITS☆ザ☆情報土木をまとめたときに収集した資料(エクセル形式)を参照すると、財産目録シートの3.その他の資産に退職給与積立預金に約5億5000万円計上されている。

そのころは、退職した高級官僚が、わずか数年勤めた外郭団体から数千万の退職金をもらい、また別の外郭団体に再就職し同様の退職金をもらう「渡り」が本格的に批判され始める前のことだ。もし、(財)日本道路交通情報センターが規定した退職金しか払っていないのであれば、その頃の2倍以上となる12億円もの退職給与引当金資産を蓄えておく必要があるのだろうか。

「現金を渡したら賭博になるが、ライターの石なら賭博にはならない」

古物商に媒介させることでパチスロは賭博ではないという警察論理、いわゆる3店方式である。誰が見てもあからさまな脱法行為にしか見えないことを公然と続ける警察の外郭団体なのだから、退職金の扱いにもなにか特殊な逃げ道でもあるのではないか、との疑いを禁じえない。

Googleマップと時代遅れの交通管制

現在は、インターネットの普及とともに始まった情報革命の真っ只中にある。日本独自のガラパゴス携帯は、絶滅へのカウントダウンが始まっている。高機能だが価格も高い日本の車載型カーナビゲーションは、安いPNDにその多くのシェアを奪われてしまった。そして今、PNDはモバイル端末のアプリに飲み込まれようとしてる。

専用インフラを必要とする日本のVICS

渋滞情報の表示ができるか否か、これはカーナビゲーションの選択上の大きなポイントである。そして、機器が渋滞情報を取得するにはふたつの方法がある。そのひとつは車両感知器のデータを使う方法で、もうひとつはGPSのデータを使う方法である。もちろん、すべてのカーナビゲーションが位置情報の取得にGPSを利用しているが、GPSで得られた複数車両の位置情報を集約し、それを渋滞情報として再利用するのがGPSを使った渋滞情報である。

ホンダの「インターナビ」とパイオニアの「スマートループ」はGPS型である。日本のITS技術者は、前記民間2社の方式をプローブ型と呼んでいるが、渋滞情報はGPSの情報から計算されている。プローブ(探触)型といわれてしまうのは、専用の通信端末がオプションで、毎月の通信費がかかることがネックとなり、一般に普及しなかったからだ。

そして、車両感知器がすべての車両を補足するのに対し、プローブ型は、利用者が少なければ渋滞情報の精度が劣ってしまう。それゆえ「インターナビ」と「スマートループ」による渋滞情報は、車両感知器の渋滞情報を補完するために使用されている。

専用インフラが不要の渋滞情報収集提供システム

日本で官主導の車両感知器型と民間2社のGPS型が棲み分けを続けているうちに、世界は劇的な変化を遂げる。GPSを搭載したモバイル端末の普及にともない、モバイル端末がプローブとしての機能を果たすようになったのである。その数は、日本の民間2社が獲得した「会員」の比ではない。これらモバイル端末の位置情報を集積加工して、渋滞情報を提供するのである。もともと通信機能のあるモバイル端末なので、特別な通信機能も不要である。利用者が多いので、車両感知器型を補完するのでなく、GPSの情報だけで、渋滞情報が提供できる。

専用の車両感知器が専用の測定器とネットワークを必要とするのに対し、GPS型は、世界中で多目的にシェア(共有)される人工衛星を利用するので、インフラは不要だ。必要なのは、情報を集積・加工するためのサーバーとシステムだけだ。車両感知器型がせいぜい幹線道路しか情報収集できないのに対し、ある程度の交通量があるすべての道路の渋滞情報が取得可能である。こうした圧倒的なアドバンテージから、渋滞情報の取得は、GPSが世界の主流となっている。多額のコストがかかる車両感知器型を全国に張り巡らせているのは日本だけだ。

このモバイル端末の位置情報による渋滞情報の提供は、2005年にINRIX社によって開始された。日本でINRIX社は知られていないが、現在のGoogleマップに表示される渋滞情報は、INRIX社のシステムによるものである。その精度に関するINRIX社の発表によれば、集積データから算出される道路の平均速度と、速度と実際の平均速度との差は5%以内だという。

Googleマップvs日本の官主導サービス

gmapGoogleマップに実装されたINRIX社のシステムは、オリジナルアプリケーションに対し、機能が限定されている。とはいえ、渋滞情報は現在情報だけでなく、過去の累積データから曜日毎および時間毎の込み具合を呼び出すことができる。日本道路交通情報センターの道路交通情報Now!!が幹線道路に限定した現在情報しか提供できないことに比較すると、雲泥の差があるといってよいだろう。

INRIX社のオリジナルアプリケーションには、次のような機能がある。

  • 出発時間を指定すると、過去の渋滞情報を勘案した最適ルートの表示
  • 地方自治体が設置した交通カメラの映像を呼び出せる
  • 地方自治体が設定したイベント情報
  • 道路ユーザーがポストした事故状況や渋滞状況を利用できる
  • 駐車場の料金情報と空き情報
  • SS毎のガソリン価格(有料版のみ)

inrixINRIX社のオリジナルアプリーションは、ワールドワイドに広がっているが日本はその中に含まれていない。日本でもアプリケーションのダウンロードはできるものの、上記機能を利用することはできない。

なお、2013年に東京で開かれたITS世界会議において、INRIX社は参加をしていない。しかし、2012年ウィーン会議2014年のデトロイト会議において、INRIX社は、International Program Committee(国際プログラム委員)を担っている。

国際プログラム委員を務め、道路交通情報提供サービスの世界的なリーディングカンパニーが、巨大市場が残る日本になぜ来ないのか考えてみよう。

日本では情報土木

ITSという言葉が使われだしたのは、ポケットベルが携帯電話にシフトする過程にあった1990年代である。その頃の日本はまだ土建国家で、談合・汚職・政官業の癒着の問題が表面化しだした頃だ。日本のITSは、国家プロジェクトとして始動し、警察庁と建設省(現国土交通省)が主導権争いの上、棲み分けエリアが決まり、そして、情報革命の前にプロジェクトの概要を決めてしまった。そして現在、日本で行われているITS関連事業は、その当時に決められたものばかりだ。

左の画像は、日本で国家プロジェクトとして、ITSが動き出したときの全体像を示したものだ。画像のリンク先は原告が15年前に書いた記事である。

INRIX社の渋滞情報収集提供システムがインフラが不要であるのに対し、日本のITSは、インフラの存在を前提としている。そして、(財)日本道路交通情報センターが警視総監の指定席となっているように、多くの外郭団体を作って、再就職先を作ることが目的化していた時代のことなので、行政-行政の外郭団体-民間企業という多層構造でプロジェクトは形成された。民間の大企業は、自らリスクを負ってイノベーションを行うのではなく、官が決めたプロジェクトに乗ることで、利益率の高いビジネスを安定的に得られていた。だから、天下りを受け入れてでも、国家プロジェクトに参加しようとしていたのである。

情報土木こうした公共事業ありきのITSは、日本が土建国家時代に批判されたダムや可動堰(かどうぜき)と何らかわるところはない。建設や整備そのものが利権の対象になるのはもちろん、公共事業によってできた施設や設備が生み出す収益のほうがより大きな利権となる部分においては、高速道路と同じだ。

違うのは、大儀が交通安全になったことと、主導権を警察庁が握っていることだ。こうした公共事業ありきで推進される日本のITSは、「情報土木」といって過言ではないだろう。

時代遅れの交通管制

以上のとおり、日本の交通管制は、完全に時代遅れのシステムである。時代遅れであることを隠すために、東京で開催されるITS国際会議は、日本仕様に変更されている。「安全で円滑な交通」を大儀としながら、安全を評価するための一指標となる速度情報は秘匿されている。

その一方、他国と比較して著しく低い法定速度を変えようとはせず、ドライバーとライダーは、国家公安委員長も指摘した「安全な道路」で、取り締まりのターゲットとされる。ドライバーが払った反則金は、交通安全特別対策交付金となって、時代遅れの交通管制システムに注がれている。多額なコストをかけて得られた交通情報は、無償かつ無競争で警察の外郭団体が独占し、理事長として再就職した警察官僚は、高額な報酬を手にしている。

この状況は、もはや、ドライバーとライダーが、時代遅れの交通管制システムを維持するための財布にされている、といっても過言ではないはずだ。

異質な日本の交通行政

国家公安委員長の疑問でも示したとおり、こんな絵に描いたような利益誘導がまかり通っているのは、警察があまりにも多くの権限を握っているからだ。

警察という機能が市民に強制力を行使しうることから、多くの国では捜査と取り締まりに限定した権限しか持たないのに対し、日本の警察は、道路交通を規制する権限も握っている。それどころか、「情報土木」という、規制と取り締まりの結果に大きく左右される公共事業を主導する権限までをも握ってしまった。

photoDriveこうした警察への権力の集中によって、日本の交通規制は、民主性を失い、「取り締まりのための規制」に成り下がっている。結果、ドライバーとライダーの多くは、ハンドル握るたびに法令違反をすることとなるのである。

しかしながら、警察に意見する窓口は閉ざされているし、恐怖に訴える論証を多用した警察広報が楯となり、ドライバーとライダーが常々実感しているに対する不満が世論になることはない。

術なく、ドライバーとライダーは、警察の強制的なコントロール下に置かれることとなり、取り締まりに怯えながらの運転を余儀なくされる。取り締まりで捕まったら現実的な対抗手段はない

こうして、ドライバーとライダーは、秩序感覚を破壊される。その一方で、権力の担い手となる警察官はひんぱんに権力を利用した犯罪をおかしている。そうして、法の権威は失墜する。

こんな理不尽で気色の悪い警察国家で、子供たちがまともに育つはずがないだろう。

執筆者プロフィール

野村 一也
ライター
 創世カウンシル代表

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