2014(H26)年12月19日
2014(H26)年(う)1049号 道路交通法違反事件
東京高等裁判所第8刑事部御中
被告人 野村 一也
控訴趣意補充書
被告人は、2014(H26)年7月31日提出の被告人控訴趣意書について、以下のとおり補充する。
1.人身事故の発生状況を正確に示す証拠について
被告人控訴趣意書訂正申立書中、二の2に示したとおり、本件取締り区間は事故が少ない道路である。また、被告人が意見書に示したとおり、多発しているのは「悲惨な事故」ではなく軽症事故であるにもかかわらず、警察庁はその内訳を積極的に公開していない。
本控訴審公判第二回目において、裁判体は、意見書における被告人の主張の根拠となる被37を検察官の「必要がない」という理由さえ添えられない意見に則し、不採用とした。
一方、検察官が請求した検11には、(軽症者を含む)人身事故発生件数と死者数だけで、やはり軽症者数と重傷者は織り込まれていない。なお、本件速度取締り区間が信号のない約1キロメートルの直線区間のほぼ中央付近であるのに対し、検11は、事故が集中する交差点区間を含んだ環状2号線全域の事故件数である。それゆえ、本件速度取締りの妥当性を証するには著しく不適切であり、裁判体がこれを採用することがないよう強く求める。
また、(軽症者を含む)人身事故発生件数と死者数だけを表示することによって、悲惨な事故が多発しているかのように印象を操作する効果があることは否定できず、それは被告人にとって大きな不利益となる。
そこで被告人は、検11と同じ区間における事故発生状況について、自ら情報公開請求をおこなった≪被68≫。公開される文書には、(軽症者を含む)人身事故発生件数と死者数だけでなく、重傷者と軽症者の内訳が明示されることに疑いはない。
この情報公開請求に対する文書が公開されるまで、結審しないよう、被告人は求める。
2.神奈川県公安委員会に独立した組織としての実態がない証拠について
被告人が知る限りにおいて、速度違反事件を審理する裁判体は、公安委員会の意思決定の書類を証拠として提出させ、道路交通法に則った事務が行なわれているから速度規制に違法性はない、とした判断を為している。そして、本控訴審においても、裁判体は、公安委員会の速度決定通知書を検察官に求め、検察官はそれを検1として請求した。
しかしながら、意見書にも示したとおり、神奈川県公安委員会には,執務室がなく、独自スタッフもおらず,専用の電話回線さえ保有していない。神奈川県公安委員会に電話をしても,電話に出るのは神奈川県公安委員会に管理されているはずの警察官である。それゆえ,神奈川県公安委員会は,独立した組織としての体を為していない,と言わざる を得ない。
神奈川県公安委員会に意思決定できるだけの機能がないことを示す証拠を提出するために、被告人は、神奈川県公安委員会に対し、次の情報開示請求を行なった≪被69≫。
- 2015年1月1日より同年12月31日の期間において、神奈川県公安委員会の委員が合議を行なった日にちと時間帯、合議の名称または目的を示す書類。
- 同期間において、各公安委員に支払われた報酬を示す書類。
- 同期間において、1以外に公安委員が合議以外の目的で神奈川県警察本部庁舎に出勤した日にちと時間帯、合議の名称または目的を示す書類。
この情報公開によって得られた文書によって証明しようとする事実は、神奈川県公安委員会の各委員は、週1回2~3時間程度の会議に出席するだけの名誉職であり、独自スタッフもいない神奈川権公安委員会には、独立して意思決定をするだけの機能を持ち得ない、ということである。
なお、神奈川県公安委員会には,執務室がなく、独自スタッフもおらず,専用の電話回線さえ保有していない事実を、被告人は証拠として示すことができない。それゆえ、裁判体が職権でそれを確認することを期待する。
この情報公開請求に対する文書が公開されるまで、結審しないよう、被告人は求める。
3.本件速度取締りの違法性を証する証拠について
被4に示したとおり、神奈川県警察は速度違反の検挙に対し、数値目標(いわゆる検挙ノルマ)を課している。しかしながら、被4は、そのほとんどが黒く塗りつぶしされているため、被告人は、その詳細を証拠として示すことはできない。
被告人の経験則において、神奈川県警察港北警察署は、検挙ノルマのうち、速度違反検挙ノルマを消化するために、環状2号線で積極的な速度取締りを行なっている。しかしながら、被告人控訴趣意書訂正申立書中、一の第3の4に示したとおり、神奈川県警察が、被告人の情報公開請求に対し、公開拒否を行なった≪被71≫ため、被告人はその証拠を提示することはできない。
それゆえ、被告人は、被告人控訴趣意書訂正申立書中、二の3において、神奈川県警察がそれを明らかにしないプロセスを示したうえで、裁判体が職権でそれを公開させるよう促した。
それに対し、第2回公判までの当控訴審においては、裁判体は言及さえしていないどころか、ノルマの存在を示す被4を不採用とした。
そこで被告人は、神奈川県警察に対し、環状2号線における検挙実績の存在を示す文書を開示するよう、再度公開請求した≪被70≫。神奈川県警察は非開示決定≪被71≫の後、2014(H26)年11月25日、被告人は、非開示決定の処分取消し訴訟「取締り件数の公開拒否に対する処分取消請求事件」を横浜地方裁判体に提訴した。
この非開示決定の処分取消し訴訟によって得られる文書で証明しようとする事実は、神奈川県警察港北警察署は、県警本部から課せられた速度違反の検挙ノルマのほとんどを、本件取締りが行われた横浜環状2号線で検挙している、ということである。
4.検5(別添資料2)について
公判第2回目(10月19日)までにおいて、裁判体は、被60(取締り現場の動画)を不採用とした。交通の流れに影響を持ち得ない被告人が、編集が困難な動画に何ら意図的な細工を為しえないことを強調する。
その直後の10月20日、神奈川県警察は、本件取締り区間で1時間の速度測定を行なった。その結果が検5の2(添付資料2)である。
被告人は、本控訴趣意補充書3に示したとおり、神奈川県警察の速度違反取締りが事故が多い場所ではなく、検挙ノルマが達成させやすい場所で行なわれている事実を立証する証拠を提出することはできない。
しかしながら、被告人の20年間の経験則において、本件取締り区間は、神奈川県警港北警察署が速度違反検挙ノルマを達成するための「漁り場」である。でも、被告人は、それを立証する証拠を提示することはできない。
裁判体の評価はさておき、本件速度取締り区間が神奈川県警港北警察署が速度違反検挙ノルマを達成するための「漁り場」であるなら、そこを通行する車両運転者の多くにとって、本件速度取締り区間は速度取締りに対する大きな注意を払う場所である。
もし、検5(別添資料2)における速度測定を実施したときに、車両運転者らの目立つ場所に警察官を配置したなら、そこを通過する車両の速度は、通常の速度に比して、大きく減じられることを被告人は推測する。
挙証責任によって、検察が大きな労力を負うことを被告人は理解しているが、「疑わしきは被告人の利益に」という無罪推定の原則からかけ離れた証拠評価が為されないことを被告人は期待する。
5.訴訟手続き停止の申立て
裁判体が、神奈川県警察に対し、被告人控訴趣意書訂正申立書中、二の3において被告人が促した本件取締りが行われた速度取締り件数を公開させないのなら、本控訴趣意補充書中の3に示すの非開示決定の処分取消し訴訟が結審するまで、本控訴審を停止するよう求める。
なお、非開示決定の処分取消し訴訟における主たる理由は、交通取締りは行政行為であるので、捜査を理由とした非開示決定は無効である、とする予定である。
以上
証拠説明書2
番号 | 標目 | 作成者 | 目的または立証趣旨 |
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作成年月日 | |||
被68 | 情報公開請求 | 被告人 | 環状2号線において発生する人身事故のほとんどが軽症事故であることを証するための情報公開請求をおこなった事実 |
2014年12月04日 | |||
被69 | 情報公開請求 | 被告人 | 神奈川県公安委員会の各委員が名誉職程度の勤務実態しかない事実を証するための情報公開請求をおこなった事実 |
2014年11月28日 | |||
被70 | 情報公開請求 | 被告人 | 神奈川県警港北警察署が速度違反の検挙ノルマのほとんどを横浜環状2号線での検挙で消化している事実を証するための情報公開請求をおこなった事実 |
2014年12月04日 | |||
被71 | 情報公開請求 | 被告人 | 神奈川県警察が被告人の情報公開請求に対し拒否をおこなった事実 |
2014年11月18日 |