23分間の洗脳

朝のラジオで『23分間の奇跡』という本の紹介を聴いて、それをアレンジした。

洗脳教師朝の9時、子供達の集まる教室で、担任の先生が泣いている。そこに新任の若い教師がやってきて、その先生に教室から出て行くよう促した。新任の教師に不信感を抱いた子供たちも、「みんなのため」という言葉と、教師の誠実な姿勢に心を許し、次第に打ち解けていく。

思想犯として自分の父親が拘束されたことによって、子供ながら社会に不審感を抱いていたとしゆきが、新任の教師に不満をぶちまけると、教師は「おとうさんは、“間違った考え”を正すために大人の学校へ行っているのよ」と教え諭す。

自由と責任教師は、前任の先生が筆で描き、額縁で飾られた“自由と責任”という言葉の意味について、子供たちに質問する。そして教師は、“自由”の意味も“責任”の意味も、子供たちが説明できないことを指摘する。次に「意味も分からない言葉を大事にするのはおかしい」と言って、子供達を納得させる。そして教師は、額縁から“自由と責任”と書かれた紙を抜き出し、子供たちに破り捨てさせる。

ルールを守ろう次に教師は、“ルールを守ろう”と書いた紙を取り出し、それを額縁に入れた。そして、「これならみんなも分かるでしょ」と自信満々に指し示すと、子供達は大きくうなずいた。

この頃には、子供たちのあいだに教師の言うことを受け入れる雰囲気が広まっており、教師の言葉はどれも真実であると考えるようになる。

洗脳教師最後まで抗っていたとしゆきも、新任の教師の言うことをよく聞いて、“間違った考え”を抱かず、“ルールを守ろう”と心に決める。

自分の教えた思想を子供たちが受け入れた事に満足した教師が時計を見ると、時刻は9時23分であった。

原作『The Children’s Story』は、ジェームズ・クラベルの短編小説で、Brainwashing(洗脳)の怖さを訴えた秀作。

翻訳版は青島幸男氏が手がけた。内容は秀逸であるが、そのタイトル「23分間の奇跡」は、新任教師が「良い意味での奇跡」を起こすかのような印象を与えてしまい、内容に即していない。

活字離れが進み、情報が氾濫し、安直に答えを求める傾向の強い現代においては、動画が理解の近道だ。1991年に賀来千賀子主演の短編ドラマがYouTubeにある。

そして、この国は「ルールを守ろう」というプロパガンダに異論できなくなった。

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執筆者プロフィール

野村 一也
ライター
 創世カウンシル代表

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