2014(H26)年11月4日

2014(H26)年(ワ)第3949号法定速度の非合理性に対する国家賠償請求事件
横浜地方裁判所第2民事部御中

野村一也の印
原告
野村 一也

訴 状 訂 正 申 立 書 兼 訴 状 補 充 書 

頭書事件について,原告は,次のとおり,訴状を訂正する。

第1 訴状訂正の申立

1 被告の住所および代表者を次のとおり訂正する

法務大臣 上川 陽子
〒100-8977 東京都千代田区霞が関1-1-1
国家公安委員会
国家公安委員長 山谷 えり子
〒100-8974 東京都千代田区霞が関2丁目1番2号
警察庁
警察庁長官 米田 壮
〒100-8974 東京都千代田区霞が関2丁目1番2号
神奈川県
神奈川県知事 黒岩 祐治
〒231-8588 神奈川県横浜市中区日本大通1
神奈川県公安委員会
神奈川県公安委員長 岩澤 啓子
〒231-0002 神奈川県横浜市中区海岸通2丁目4番
神奈川県警察本部
神奈川県警察本部長 松本 光弘
〒231-0002 神奈川県横浜市中区海岸通2丁目4番

2 請求の趣旨を次のとおり訂正する

(1)被告らは,原告に対し,金10万円を支払え。

(2)訴訟費用は被告らの負担とする

との判決と仮執行の宣言を求める。

第2 訴状補充の申立

訴状中,第7の後に「第8」および「第9」として,以下を補充する。

第8 被告らの責任

被告国

警察法第7条の規定によって,内閣総理大臣に,国家公安委員の任免権はあるが,警察法第1171の定める緊急事態を除き,警察庁を指揮・命令・指導・監督する権限が存在しない。また,本件事件に関与のある法令は,警察法,道路交通法,道路交通法施行令であり,いずれも被告警察庁が所管する。

もし,内閣総理大臣の任免権が形骸化し,被告警察庁が推す人物を追認するのが慣例であったとしても,一般原則として,任免権者が為すべきは,国家公安委員会に責務に見合った任免をなすことである。慣例は抗弁にならない。

被告国家公安委員会

(1)2000(H12)年,被告国家公安委員会は,警察不祥事の多発を受けて,警察刷新会議を招集した。

(2)同年7月,警察刷新会議は,「警察刷新に関する緊急提言」を被告国家公安委員会に提出した。

(3)被告国家公安委員会は,『警察法上の「管理」について』と題するWEB上の広報において,次のとおり声明を出した。

「国家公安委員会が警察行政の大綱方針を定め,警察行政の運営がその大綱方針に則して行われるよう警察庁に対して事前事後の監督を行うこと」を一般原則とするのが相当であるとされてきた。

上記文章には,次の2つの問題がある。

  • ア 括弧書きの内容が「一般原則とするのが相当である」とされているが,そのような一般原則は存在しない。
  • イ 国家公安委員会の管理責務を,括弧書きの内容に限定することは,警察法第5条第2項各号および同法同条第3項に規定された管理責務のうち,警察法第5条第2項第1号を除くすべての項と同法同条第3項を反故にする内容であるといわざるを得ない。

被告国家公安委員会は,ア・イの2点の問題を含む「警察刷新に関する緊急提言」に対する検討結果を何ら公表することなく,『警察法上の「管理」について』と題した文書を国家公安委員会の名前で公表した。以後,警察改革から,権力を監視あるいは分散する必要性が問われることがなくなり,警察内部で改革のみが行なわれる結果を導いた。

そして,被告国家公安委員会は,週に1度の会議を行なう程度の仕事を漫然と続け,被告警察庁に頼らず事務を行なうための独自スタッフさえ置こうとせず,被告警察庁の警察官にその事務を委ねたままであるにもかかわらず,まるで警察法第5条に規定された責務を果たしているかのように国民を欺き続けた。その結果,道路交通法や風営法といった被告警察庁所管の法律が規制する各分野において,被告警察庁による権力の濫用が発生しており,国家公安員会の不作為責任は甚大である。なお,被告警察庁による権力の濫用については,弁論または新たな訴状補充書にて補完する。

被告警察庁

2000(H12)年8月,被告警察庁は,被告国家公安委員会と連名で,「警察刷新に関する緊急提言」を元にした警察改革要綱を公表した。警察改革要綱の1に「公安委員会の管理機能の充実と活性化」と題していながら,(4)においては『「管理」概念の明確化』とされている。そして,「管理」概念が被告国家公安委員会が提言した『警察法上の「管理」について』を指すことに疑う余地はない。

現在に至るまで,被告警察庁は,国家公安委員会または都道府県公安委員会による「管理」の責務が極めて限定されているかのように扱っている。その結果としての現在,すべての都道府県公安委員会に,その事務を補佐する常勤の職員は存在しないままとされている。そして,都道府県公安委員会は,管理されるするはずの警察官に事務を取り仕切られている。

一方,被告神奈川県警察本部(以下「被告神奈川県警」とする)を含めたすべての都道府県警察において,警視総監と道府県警察本部長は,国家公務員上級甲種試験を経て被告警察庁に入庁した幹部職員,いわゆる被告警察庁のキャリア幹部が占めている。また,警視正以上の階級の警察官は,都道府県警察の勤務であっても国家公務員となり,給与は国から支払われている。また,警察法第16条の規定により,警察庁長官は,警視総監と道府県警察本部長を含む所部の職員を任免し,服務を統督し,都道府県を指揮監督することができる。

以上の組織体制を鑑みれば,都道府県警察の実態は,被告警察庁の子会社と言っても過言ではない。それゆえ,訴状第4に指摘した違法性の責任は,そのほとんどが被告警察庁に所在する。

被告神奈川県

都道府県知事に都道府県警察を指揮することはできない。警察庁長官が都道府県警察を指揮権は,警察庁長官にある(警察法第16条)。さらに,被告神奈川県警の職員のうち,警視正より上位の階級の警察官に対する任免権および懲戒権は,警察庁にあって(警察法第55条第3項),被告神奈川県にはない。被告神奈川県が,警察事務に対し,行い得るのは,被告神奈川県警を「管理」することになっている神奈川県公安委員の任免に過ぎない(警察法第39条)。被告神奈川県は,任免した委員が主体性を持って警察を管理することを期待する以外に,警察事務に関与することはできない。

こうした警察行政の構造を鑑み,被告神奈川県公安委員会に警察法第38条第4項および同法第5条第3項の規定された責務を全うさせるために,被告神奈川県には,神奈川県公安委員を慎重に任命をすることが一般原則として期待される。しかしながら,被告神奈川県が,被告神奈川県公安委員会の委員を,常勤の職員として任命したことはない。現職も含め,これまでのすべての公安委員が非常勤である。このことは,任免権の行使において,警察法の精神および県民の期待に背いており,その不作為責任は甚大である。もし,知事の任免権が形骸化し,被告神奈川県警が推す人物を追認するのが慣例であったとしても,それは抗弁にはならない。

神奈川県公安委員会

神奈川県公安委員会は,委員長1名,委員4名で構成されており,全員が非常勤である。被告神奈川県警内には,各委員らに執務室は与えられていない。そして,委員らは,週に1度の会議に出るだけの仕事を漫然と続け,事務を行なうための独自スタッフさえ置かないまま,まるで警察法第5条に規定された責務を果たしているかのように県民を欺き続けた。その結果,道路交通法や風営法といった被告警察庁所管の法律が規制する各分野において,被告神奈川県警による権力の濫用が発生しており,神奈川県公安員会の不作為責任は甚大である。もし,被告神奈川県警に「名誉職」をそそのかされて委員らがその職を受けたとしても,抗弁にはならない。なお,被告神奈川県警による権力の濫用については,弁論または新たな訴状補充書にて補完する。

被告神奈川県警

被告神奈川県警を指揮する権限は,警察庁長官にある(警察法第16条)。また,歴代の神奈川県警察本部長は,すべて国家公務員上級甲種試験を経て被告警察庁に入庁した幹部職員,いわゆる警察庁のキャリア幹部である。さらに,警視正以上の階級の警察官は,国家公務員である(警察法第56条)。それら国家公務員が常に地方公務員の上司となり,地方公務員は上司である国家公務員の命令を遵守することが求められる(警察職員の職務倫理及び服務に関する規則2の(3)のイ)。なお,神奈川県警察本部長は,わずか2年程度の任期でローテーションされている。

こうした警察行政の組織構造を鑑みれば,被告神奈川県警に地域の実情に合わせた独自の施策が行い得るはずがなく,その責任のほとんどは被告警察庁に所在する。

第9 まとめ

本件国家賠償請求事件は、道路交通法上の問題を主たる訴因とする。しかしながら、国家の基本的機能である警察の中枢の問題の悪影響は計り知れないと原告は考える。また、原告は、権力の集中する警察組織において、その誤作動を防止する唯一の機能(公安委員会制度)が正常にはたらいていないことは、極めて恐ろしい事態である、との指摘を加える。

次の図表は、本訴状補充書中第8の内容をわかりやすく図にしたものである。

警察主権を可能にする公安委員会

以上