平成26年11月26日判決言渡 言渡同日原本領収 裁判所書記官 本田豪

平成26年(行ウ)第22号「歩行者が出てくる危険性もない道路」で行われる速度取締りによる処分取消し請求事件

口頭弁論終結の日 平成26年9月29日

判 決 

横浜市神奈川区七島町9-5マック大口コート205

原告 野村 一也

横浜市中区日本大通1

被告 神奈川県

同代表者
神奈川県公安委員会
同委員会代表者委員長
岩津啓子
処分行政庁
神奈川県警察本部長
松本光弘
被告指定代理人
矢部聡
大竹孝行
萩峯義成
佐藤公
金子秀行
梅田豊
山崎孝幸
佐久間英幸
伊藤成和
北村優美子
松村正和
野口富士
上田淳

主文

  1. 原告の請求を棄却する。
  2. 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求の趣旨

処分行政庁が平成26年3月2日付けで原告に対してした運転免許の効力を停止する処分を取り消す。

第2 事案の概要

本件は,道路標識等により最高速度が50km/h(「km/h」はキロメートノレ毎時を表す。)と指定された道路においてこれを30km/h以上超過する速度で二輪車を運転するなどの道路交通法(平成25年法律43号による改正前のもの。以下「道交法」という。)の違反行為をし,これらの行為により違反行為に係る累積点数が所定の点数に達したとして,処分行政庁から,運転免許の効力を120日間停止する処分(以下「本件処分」という。)を受けた原告が,上記速度規制には合理的な理由が存在しないから取締りは違法であるなどと主張して,被告に対し,本件処分の取消しを求める事案である。

1 前提事実

(1)原告は,現在49歳の男性であり,神奈川県公安委員会から,第一種運転 免許のうち中型自動車免許(中型車(8トン)に限る)及び普通自動二輪車 免許の交付を受けた者である(争いがない。)。

(2)整備不良(甲65,乙6,8,弁論の全趣旨)
原告は,平成24年10月13日午後10時21分頃,東京都八王子市大
和田町一丁目30番付近道路において,普通乗用自動車(横浜303の43
00号)を尾灯が切れた状態で運転し(以下「本件整備不良」という。),
もって道交法62条の規定(整備不良車両の運転の禁止)に違反した。

(3)速度超過

ア速度超過による摘発(争いがない。)

原告は,平成25年5月16日,普通自動二輪車(横浜Cな1515号。以下「本件車両」という。)を運転して横浜市道環状2号線(以下「市道環状2号線」という。)を南西から北東に向かって(岸根町方面から大豆戸町方面に向かって)進行し,午後3時48分頃,横浜市港北区新横浜一丁目19番20号先道路(以下「本件取締場所」という。)を通過した。
本件取締場所は,道路標識等により最高速度が50km/hと指定されている道路である(以下,この最高速度規制を「本件速度規制」という。)。神奈川県港北警察署交通課交通指導係の警察官らは,直ちに原告に停止を求め,測定時分「15時48分」,測定速度「93km/h」と印字された。速度測定カード(乙2)を原告に示した上,原告に対し,道交法22条1項に違反して最高速度を30km/h以上超える速度で本件取締場所を進行した違反行為(以下「本件違反行為」という。)の事実並びに交通切符の記載内容及び違反内容に間違いがないことを確認し,交通事件原票(乙19)の下部にある供述書欄(同欄には,不動文字で「私が上記違反をしたことは相違ありません。事情は次のとおりであります。」と記載されている。)の氏名欄に署名するよう求めた。原告は,同欄に「通常80km/hで流れている道路なので規制速度が低すぎる」と記載して署名し,速度測定カードにも署名した。
同署警察官は,原告が同日午後3時48分頃本件取締場所において最高速度50km/hを43km/h超過する指定速度違反をしたこと(本件違反行為)について,取締り原票(乙1)を作成した。

イ本件違反行為に対する刑事処分(弁論の全趣旨)

神奈川県警察本部交通指導課長は,平成25年7月23日,本件違反行為に係る原告の刑事事件を横浜区検察庁検察官に送致し,同検察官は,平成26年2月21日,同事件について当庁に公訴提起した。原告は,同年-4国横浜地方裁判所5月20日,当庁において罰金8万円の有罪判決を受けたものの,控訴し,現在東京高等裁判所にて審理中である。

(4)通行帯違反

原告は,平成25年7月14日午後5時14分頃,本件車両を運転し,横浜市金沢区堀口10番地横浜横須賀道路金沢支線下り3.5キロポスト付近道路において,追越し車線を約1.1キロメートル走行し(以下「本件通行帯違反」という。),もって,道交法20条1項(車両通行帯)の規定に違反した(争いがない。)。
原告は,本件通行帯違反について,同年11月13日,保土ケ谷簡易裁判所にて道交法違反の罪より罰金6000円の略式命令を受け,同月19日,同罰金額を納付し,その後も正式裁判の請求を行わなかったため,上記略式命令は同月28日に確定した(弁論の全趣旨)。

(5)行政処分(甲4,7,65,乙4ないし8,弁論の全趣旨)

神奈川県警察港北警察署長は,本件違反行為に係る関係書類を神奈川県警察本部交通部運転免許本部免許課長(以下「免許課長」という。また,同課を「免許課」という。)へ送付した。免許課長は,本件違反行為の事実に誤りがないことを確認し,その旨を神奈川県公安委員会に報告した。神奈川県公安委員会は,道交法106条に基づき本件違反行為を国家公安委員会に報告したところ,同委員会から,原告が行政処分対象者に該当するとの通報を受けた。
神奈川県公安委員会は,免許課の職員をして,本件違反行為に係る関係記録を審査させたところ,行政処分に係る累積点数は,本件整備不良の基礎点数1点と本件違反行為の基礎点数6点の合計7点で,原告には本件違反行為を行った日を起算日とする過去3年以内の処分前歴が1回あったため,免許の効力の停止期間を90日間とする処分量定に該当するものの,処分量定の特例(乙4)により,停止期間を60日間と定めて免許の効力を停止することとした(道交法103条1項5項,道路交通法施行令(以下「道交法施行令」という。)38条5項2号イ,同別表第三の1第1欄及び第7欄,「運転免許の効力の停止等の処分量定基準の改正について」(乙5)「運転免許の効力の停止等の処分量定の特例及び軽減の基準について」(乙4))。神奈川県公安委員会から事務の委任を受けている処分行政庁(道交法114条の2第1項)は,意見の聴取を行うべく,原告に対し,平成25年6月25日に免許課に出頭することを求めた行政処分呼出通知書を送付したが,原告は呼出場所に出頭しなかった。そのため,処分行政庁は,同日,原告に対し,停止期間を60日間と指定する免許の効力の停止処分を決定したが,上記のとおり原告が出頭しなかったため,免許の効力の停止処分を執行することができなかった。
そこで,原告の住所地を管轄する神奈川県警察神奈川警察署(以下「神奈川署」という。)の職員は,原告に対し,同年7月26日までに同署に出頭するよう呼出通知書を送付したり,電話したりするなどして出頭を求めたが,原告の出頭はなく,上記処分を執行することはできなかった。
原告は,前記前提事実(4)のとおり同月14日に本件通行帯違反を行った。
神奈川県公安委員会は,上記違反を加えると累積点数が8点となり,原告の処分前歴が過去3年以内で1回であったことから,停止期間を120日間と定めて免許の効力を停止すべきであるど処分量定した。そして,上記のとおり同月26日までに原告の出頭がなかったため,免許課長は,停止期間を60日間とする上記免許停止処分通知書を引き上げた。
その上で,処分行政庁は,停止期間120日間とする免許停止処分に関する意見の聴取を行うべく,原告に対し,同年8月20日付けで「行政処分呼出通知書」を送付したが,原告は,呼出場所である免許課に出頭しなかったため,免許の効力の停止期間を120日間と指定する処分を決定した(道交法103条1項5号,道交法施行令38条5項2号イ,別表第三の1,乙5参照)。神奈川署の職員は,当該処分を執行すべく,原告に呼出通知書を送
付したが,原告は呼出には応じないと申し立てた。その後,原告は,平成2
6年3月2日に免許の更新手続のため免許課を訪れ,その際,当該処分の処
分書を交付され,同日から同年6月29日までの120日間,免許の効力を
停止する処分(本件処分)を受けた。

(6)訴えの提起(当裁判所に顕著な事実)

原告は,同年3月18日,本件訴えを提起した。

2 争点

前記前提事実(3)アによれば,本件違反行為があったこと(原告が最高速度を30km/h以上超える速度で走行したこと)が認められる。本件の争点は,本件違反行為の取締りが適法が否かであり,具体的には,本件速度規制の合理性の有無及び本件違反行為の取締りが平等原則に違反するか否かが問題となるが,これに関する当事者の主張は次のとおりである。

(1)原告の主張

ア警察官の責務の範囲に,警察法2条に基づいて交通を取り締まることは含まれるが,取締りの根拠である本件速度規制には合理性がなく,本件違反行為を取り締まったことは違法である。
自動車の法定速度である60h、/h(道交法施行令11条)は,外国に比べて極端に低く,科学的根拠を欠いており,規制速度の決定方法等を定めた交通規制基準(平成23年2月4日付け警察庁丙規発第3号,丙交企発第10号。以下「交通規制基準」という。乙1o・)は,この法定速度から引き算をしただけの不合理なものであり,本件速度規制も合理性がない。
また,本件取締場所付近のような歩行者が出てくる危険性もない道路においては,車両走行速度そのものよりもその速度差があることが事故に関与する確率を高め,現実の車両の平均走行速度より少し速い速度で進行する車両は,事故に関与する確率が最も低いという研究結果がある。本件取締場所付近における人身事故の件数は,平成20年から平成24年までの5年間で重傷事故1件,軽傷事故10件であり,いずれも車両同士の事故であるから,歩行者が飛び出すおそれのない安全な道路といえる。そして,本件取締場所付近では,車両の平均走行速度が70km/hを超えているのに規制速度は50km/hであって,実勢速度(85パーセンタイル速度。後記第3.1(2)参照)と規制速度とが罪離している。そのため,本件で,警察は,事故に関与する確率が低いような車両を取り締まっているのであって,本件速度規制は交通事故の抑止という目的に適合していない。よって,本件速度規制には合理性がない。
したがって,本件速度規制に基づいて行われた本件違反行為の取締りは違法である。

イ実勢速度と規制速度とが罪離している場所で行う取締方法は,取締場所を知っている者は取締りを受けることはなく,知らない者だけが取締りを受けることとなるから,平等原則に違反し,違法である。したがって,この点からも本件違反行為の取締りは違法である。

(2)被告の主張

原告の主張は判然としないが,本件取締場所における実勢速度と本件速度規制の規制速度とが著しく罪離しているため,本件速度規制自体無効であるから,当該規制を前提として取締りを行った本件違反行為は,違反行為として成立しないと主張しているものと解される。
都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)は,道交法4条1項所定の「必要があると認めるとき」は,交通規制を行うことができる。本件速度規制は同項に基づき神奈川県公安委員会が意思決定したものであるが,同意思決定は,交通規制基準に準拠して適正に行われたものである。すなわち,本件取締場所は,市街地であり,車線数が4車線以上で中央分離帯があり,歩行者交通量が多いといった規制実施基準を満たしており,その上で安全性の確保等の補正要因を考慮して,上記の意思決定された。したがって,本件速度規制には十分合理性があり,何ら違法性はない。
なお,原告は,本件取締場所付近が「歩行者が出てくる危険性もない道路」であるとも主張しているが,本件取締場所から約350メートル離れた場所で平成25年に歩行者と軽自動車の間の人身事故が発生し,この事故により歩行者は死亡していることから,原告の主張はその前提を欠き,理由がない。

第3 争点に対する判断

1 認定事実

前記前提事実に加え,証拠(括弧内掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,
次の事実が認められる。

(1)本件速度規制(乙11)

神奈川県公安委員会は,市道環状2号線について,平成16年5月14日に,以下の意思決定をした。

  • ①場所・延長横浜市鶴見区上末吉五丁目9番13号先から同市神奈川区菅田町2967-1先まで延長約8100メートル(以下,この区間を「本件区間」という。)
  • ②対象車両(緊急自動車,原動機付自転車,牽引1,牽引2及び牽引3を除く。)
  • ③最高速度50km/h

(2)交通規制基準(乙10)

交通規制基準は,公安委員会等が道交法4条1項や道交法施行令等の規定に基づいて道路標識等を設定し,及び管理して,交通規制を行う為に必要な一般的基準を定めることを目的として制定されたものであるが(同基準の第1及び第2参照),同基準には,以下のような記載がある。

第3 3 最高速度( 区域, 自動車専用道路及び高速自動車国道を除く。)

ア 規制目的

区間を指定して行う最高速度の規制は,車両の最高速度を指定し,均一な交通流を確保することにより,交通の安全と円滑を図り,併せて道路交 通に起因する障害を防止する。

イ 規制速度の決定方法

1 一般道路(生活道路及び自動車の通行機能を重視した構造の道路を除く。)は,下記の基準速度一覧表により,基準速度を設定する。

区分 地域 車線数 中央分離 歩行者交通量 基準速度
市街地 2車線 多い 40km/h
少ない 50km/h
4車線以上 あり 多い 50km/h
少ない 60km/h
なし 多い 50km/h
少ない 50km/h
非市街地 2車線 多い 50km/h
少ない 60km/h
4車線以上 あり 多い 60km/h
10 少ない 60km/h
11 なし 多い 50km/h
12 少ない 60km/h
  • 市街地:DID(人口集中地区),非市街地:DID以外
  • 車線数:上下線の合計。3車線の場合は,2車線の基準速度に準じ て設定する。
  • 中央分離:物理的施設(縁石,柵等)により判別し,チヤッターバ ーやボストコーンによるものは「分離なし」とする。
  • 歩行者交通量:規制速度決定時点で最新の道路交通センサスのデー タを使用する。(以下省略)
  • 歩行者交通量多い:市街地701人/12h以上,非市街地101 人/12h以上
  • 歩行者交通量少ない:市街地700人/12h以下,非市街地10 0人/12h以下

2 基準速度一覧表で設定した基準速度を最大限尊重しつつ,下記の補正要因の例示を参考にし,現場状況に応じた補正を行い,原則として 基準速度から±10km/hの範囲で規制速度を決定する。

なお,この場合において,現行規制速度が実勢速度(85パーセンタイル速度※)と乗離(おおむね20m/h以上)している道路においては,適切な規制速度となるように検討すること。

3,4省略.

※85パーセンタイル速度:ある区間を走行する車両の速度を低い順番から並べた場合に,全体の85%が含まれる速度の値。

補正時
の観点
基準速度を下方修正するケース 基準速度を上方修正するケース
安全性
の確保
交通事故が多い
重大事故の発生割合が高い
交通事故が少ない
重大事故の発生割合が低い
生活環境
の保全
人家,商店が多い
通学路である
大気汚染,騒音に配慮する必要
浅樺罰,
がある
人家,商店が少ない
通学路でない
道路構造 歩道が設置されていない
視距が確保されていない
道路線形が悪い
路肩が確保されていない
歩道が設置されている
視視距距がが確確保保さされれてている
道路線形が良好である
路肩が確保されている
沿道状況 沿道出入口が多い
交差点間隔が短い
沿道出入口が少ない
交差点間隔が長い
交通特性 大型車混入率が高い
歩行者・自転車が多い
実勢速度が低い
大型車混入率が低い
歩行者・自転車が少ない
実勢速度が高い
ウ 留意事項(6以外は省略)

6 同一路線における頻繁な規制速度の変化は,交通流に影響を及ぼすことから,規制区間長に留意すること。

(3)ア本件取締場所付近の市道環状2号線は,片側3車線で中央分離帯(縁石又は縁石と柵等)で隔てられている(乙12,18)。

イ 新横浜駅入口交差点は,本件取締場所より市道環状2号線を約700メートル大豆戸町方面に向かったところに存在する本件区間内の交差点である(甲1,乙13,弁論の全趣旨)。同交差点の平成19年11月21日火曜日午前7時から午後7時までの歩行者数は2万9075人であり,自転車は2173台である(乙16)。

ウ 本件取締場所付近は,新横浜駅に近く,平成22年度国勢調査における人口集中地区内であり,人家や商店が多い。また,本件取締場所付近の市道環状2号線は,沿道への進入が多く交差点の間隔も短い(乙13,14,弁論の全趣旨)。

エ 本件取締場所を管轄する港北警察署の管轄区域内にある市道環状2号線の区間(本件区間の一部)における平成23年度から平成25年度までの交通事故発生件数は297件で,死亡者数は2人(そのうち1件は,本件取締場所から約500メートル大豆戸町方面に向かった横断歩道のない場所を横断していた歩行者が軽乗用車にはねられたというもので,歩行者はこの事故によって死亡した。),負傷者数は370人である。市道環状2号線の交通事故発生状況を管轄警察署別で見ると,港北警察署の管轄区域内で発生した交通事故の件数等の数値が最も多い(乙11ないし13,15,17,18)。

本件取締場所付近から約400メートル大豆戸町方面に向かった所までの市道環状2号線の区間における平成20年度から平成24年度までの車両同士の交通事故発生件数は10件であり,そのうち重傷事故は1件である(甲21,22,乙13)。

2 本件速度規制の合理性

(1)道交法4条1項は,公安委員会は,道路における危険を防止し,その他交通の安全と円滑を図り,又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため必要があると認めるときは,信号機又は道路標識等を設置し,及び管理して,道路における交通の規制をすることができる旨を規定している。同法22条1項前段に規定する最高速度の規制は,こうした交通規制のうちの一つであり,その最高速度は,通行する自動車の実勢速度,通行する歩行者や自転車の数,周辺における小学校等の施設の有無,交通事故及び交通公害の発生状況,車道及び歩道の幅員等の道路状況,規制すべき区間の前後の規制速度との関連性,その他これに関連する一切の事情を考慮して決定すべきものである。そして,最高速度の規制の性質や上記の考慮要素の多様性に鑑みると,当該道路の最高速度をどのように定めるかは,公安委員会の・広範な裁量に委ねられていると解するのが相当である。

(2)ア本件速度規制は,神奈川県公安委員会が交通規制基準を踏まえて行ったものと認められる(弁論の全趣旨)。同基準は,公安委員会等が道交法上の規定に基づいて交通規制を行う場合に必要な一般的基準として定められたものであり,そのうち最高速度規制に関する内容は上記(1(2))のとおりであって,その内容は,道交法が公安委員会に最高速度の規制を委ねた趣旨に照らして合理的なものである。
これに対し,原告は,、交通規制基準は,規制速度の決定方法として,自動車の法定速度である60km/hから引き算をしているにすぎず,この法定速度には科学的根拠がないから,同基準にも合理性がないと主張する。しかし,最高速度に関する交通規制基準は,上記のとおり道交法4条1項及び22条1項前段の規制に基づいて公安委員会が最高速度の交通規制を行う場合に従うべき基準であって,この交通規制は同項後段に基づき政令(道交法施行令11条)で定められている最高速度とは別に各都道府県の公安委員会が独自に行うものである。この点を措くとしても,上記交通規制基準では地域や車線数等によって基準速度(これは,40km/h,50km/h,60km/hの3種ある。)を定めた上,安全性の確保や生活環境の保全等の補正要因の例示を参考にして,現場状況に応じた補正を行い,原則として基準速度から±10km/hの範囲で規制速度を決定するものとされているのであるから,上記交通規制基準が単に道交法施行令11条で定められている自動車の最高速度60km/hから引き算をしたものにすぎないといえないことは明らかであるし,また,道交法施行令11条で定められている自動車の最高速度60km/hに科学的根拠がないとの証拠もないから,原告の主張には理由がない。

イ 前記前提事実(3)ア及び前記認定事実(3)によれば,本件取締場所付近は,人口密集地区であり,同所付近の市道環状2号線は片側3車線で中央分離帯があること及び新横浜駅前入口交差点の午前7時から午後7時までの12時間の歩行者は3万人に近いことが認められるので,本件取締場所は,市街地にある4車線以上で中央分離帯が設置されている歩行者交通量の多い道路ということになるから,交通規制基準に従えば,基準速度は50km/hとなる。そして,前記前提事実(3)のとおり,本件取締場所を含む港北警察署の管轄区域内にある市道環状2号線での交通事故の発生件数は他の地区と比べて多く,交通の安全性が確保されているといい難いし,・生活環境としても,本件取締場所は新横浜駅に近く,人家も商店も多い。神奈川県公安委員会は,これらの補正要因及び同一路線については一定の区間同一の規制速度にすべきであることを考慮して,本件区間の最高速度を50km/hと決定したのである(弁論の全趣旨)。以上のとおりであるから,本件速度規制は,交通規制基準に準拠したものと認められる。
これに対し,原告は,本件取締場所付近は,車両の平均走行速度が70畑/hを超えているため(甲12,16),実勢速度と本件速度規制の規制速度とが季離している上,歩行者の飛び出すおそれのない安全な道路であるから,本件速度規制(最高速度50km/h)は合理的な根拠がない旨主張する。しかし,前記認定事実(3)のとおり,本件取締場所近くの市道環状2
号線で,横断中の歩行者と軽乗用車との死亡事故が発生しているし,新横浜駅入口交差点では相当数の歩行者の通行があるから,本件取締場所付近は,歩行者の飛び出すおそれのない安全な道路であるということはできない。そして,神奈川県公安委員会が考慮した上記補正要因の内容のほか前記認定事実(3)のとおり,本件取締場所付近数百メートル区間に限ってみても,年平均2件の車両同士の交通事故が発生していることからすれば,仮に本件取締場所付近の車両の平均走行速度が70km/hを超えているとしても,本件速度規制が不合理であるとは到底いえない。

ウ したがって,本件速度規制は,合理的なものと認められるのであって,同規制を行うに当たり,神奈川県公安委員会がその裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したとは認められない。

3 平等原則違反について

原告の主張の趣旨は必ずしも明らかではないが,本件速度規制が合理的なものであることは上記2で検討,判断したとおりであるところ,車両の運転者としては常に進行する道路の交通規制に注意を払い,これを遵守すべきことは当然であって,本件速度規制を遵守していない運転者が交通取締りを行っている場所を知らなかったために,検挙されることになったとしても,何ら酌むべき事情はなく,かかる事態は平等原則とは全く関係のないものであることは明らかである。したがって,本件違反行為の取締りが平等原則に違反するなどとは到底いえないから,原告の主張には理由がない。

以上のとおり,本件速度規制は合理的なものであり,本件違法行為の取締りは平等原則に反するものではないから同取締りは適法である。

なお,原告は,道交法施行令11条は,道交法22条1項の委任の範囲を逸脱しており,無効であると主張する。しかし,本件違反行為は道交法4条’項及び22条1項前段の規定に基づいて行われた本件速度規制に違反したというものであり,道交法施行令11条の効力の有無は本件違反行為の適否を左右するものではないから,上記主張はそれ自体失当である。

第4 結論

本件違反行為があったことが認められ,かつ,本件違反行為の取締りも適法である。そして,前記前提事実(5)のとおり,これを前提として手続も適法に行われているから,本件処分は適法である。

よって,原告の請求は理由がないので棄却することとして,主文のとおり判決する。

横浜地方裁判所第1民事部

裁判長裁判官
石井 浩
裁判官
倉地 康弘
裁判官
石井 奈沙