第1審判決(刑事訴訟)

判決文は、とうぜん被告人に送られるものと思っていた。しかしながら、待てど暮らせど送られてこない。さすがに催促する気になって、横浜地裁に電話した。電話に出た書記官いわく、被告人が請求しなければ送ってもらえないのだそうだ。

「法廷は公開されている」(日本国憲法37条, 82条

これを盾にして、裁判所と検察、もちろん法を執行(enforcement)する警察も、それ以外の義務をおざなりにしているように感じてならない。だから、被告人に送られて当然の重要書類(自分の罪を国家が裁定した書類)さえ送ろうとしないのだろう。

さて、8割裁定をもらうために司法にひれふす被告人が裁判所を批判することはない。2割の減刑を弁護の価値とする弁護士が裁判所の慣例に異議を述べることもない。しかしながら、私に対する司法関係者の心証はどうせ悪いので、ついでに、刑事司法に対する私の不信を綴ることにしよう。

証拠収集力の差とそれを埋めようとしない裁判所

傍聴席から見える法廷

弁論主義を掲げていながら、検察の起訴状と冒頭陳述それから論告求刑を除き、被告人側がいったいどんな主張をしているのかは、法廷で傍聴してもまったくわからない。せいぜい被告人と関係者質問で現実の人間ドラマを見た気分になるだけだ。

ところで、現実の法廷で公開される人間ドラマ『裁判劇場』には、困った問題がある。それはテレビドラマでは登場人物の本音が映し出されるのに対し、『裁判劇場』の出演者たちの本音がまったく読めないことだ。

被告人が8割裁定をもらうために一世一代の演技をかましたとしても、裁判官に人証を見抜く特別な能力があるとはとうてい思えない。そして、事実認定の経過をまったく知らない『裁判劇場』の観客に、法廷で証言する訴訟関係人の腹の底が分かるはずもないのである。それなのに、この国の裁判所は、科学的な証拠より、法廷での証言や供述調書ばかりに重きを置いた裁定をしている。

「事実の認定は証拠による」(刑事訴訟法第317条

このように規定されているものの、法律の素人の被告人と、素人の無知を補佐する程度が関の山の弁護人、このふたりがいくら頑張っても、集められる証拠はしれている。一方、警察と検察の証拠収集力は絶大だ。

日本の刑事司法

国家権力と莫大な予算を用いて様々な情報を収集し得る警察・検察は、刑事訴訟で被告人側が証拠の開示を求めても、都合の悪い証拠を開示しようとしない。それどころか、行政の民主的な運営を担保するはずの情報公開請求に対しても、警察は安易に「捜査上の理由」を盾にすることによって、その活動の多くを秘匿している。

「全証拠の開示」の課題は、こうした国家権力と被告人との力の差を埋めようとするものである。しかし残念ながら、国家はそれを問題として受け止めていない。それどころか、逆に証拠の目的外使用(2005年改正刑訴法第281の4)を積極的に運用するようになり、冤罪に対する言論活動を著しく困難にした。また、2013年に公布された特定秘密保護法も、司法の秘匿主義を後押しする法律である。

とにかく、『裁判劇場』を傍聴したとしても、どういった証拠を被告人側が用意し、なぜ検察がそれを不同意にし、そして裁判官が検察の不同意を覆そうとしないのか、こうした事実認定のプロセスは何もわからない。しかし、冤罪に代表される日本の刑事司法の問題の根源は、警察・検察・裁判所それぞれの事実認定のプロセスにあると思われる。

  1. 警察の捜査(参照:時代おくれの刑事司法
  2. 検察による証拠の独占
  3. 検察が不同意にさえすれば、被告人側の証拠をそのまま不採用としている裁判所

「中世の司法」

人権委員会におけるこの端的な指摘をはじめ、国連が日本の刑事司法制度に課した宿題は、いわば内政干渉である。それが司法関係者にとって面白くないのは想像に難くない。しかしながら、それらの指摘は、それぞれの警察官や裁判官ではなく、刑事司法のシステム全体に向けられたものである。

なお、刑事司法の問題が一般的になってきたは、「中世の司法」と指摘されたことのほかに、冤罪を裁判所が認めざるを得なくなって袴田氏が死刑台から生還したこと、それと高知白バイ衝突死事件の報道の影響によるところが大きい。

高知白バイ衝突死事件事件では、発生直後に科学的な視点から冤罪の可能性がテレビで指摘されたにもかかわらず、裁判所は、警察・検察の証拠ばかりを採用し、被告人側の証拠をことごとく退け、そしてバスの運転手に実刑判決を下した。

ところで、「中世の司法」と他国から指摘される20年以上も前から、日本国家の中枢システムには、数多くの問題が指摘されてきた。しかし、変革を掲げた政治家はことごとく失脚し、唯一、長期政権を成し遂げた小泉氏の成果は、郵政と道路公団の民営化だ。その二つさえ、改革の目的は骨抜きにされ、ただ組織の器が変わっただけだといってよいだろう。

そんな先送りの歴史を何十年も続ける官僚主権国家が、ここ1-2年でようやく一般的な問題として認められ始めたばかりの刑事司法の問題に着手するわけがないだろう。しかしながら、司法は、独立した権限をもって、国家権力をコントロールする役割を委ねられた機関である。一縷の望みを託して、自分の裁判を争ってみたい。

前置きが長くなったが、第1審の判決分は以下のとおり。

平成26年5月20日宣告 裁判所書記官 菊池麻美子平成26年(わ)第203号 道路交通法違反被告事件

判 決

本籍 横浜市港北区大豆戸町180番地205
住居 〒221-0061 横浜市神奈川区七島町9-5 マック大口コート205号
職業 会社員

被告人 野村 一也

昭和40年2月25日生

主 文

主文被告人を罰金8万円に処する。

その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理 由

(犯罪事実)

被告人は,平成25年5月16日午後3時48分頃,道路標識によりその最高速度が50キロメートル毎時と指定されている横浜市港北区新横浜1丁目19番地20付近道路において,その最高速度を43キロメートル超える93キロメートル毎時の速度で普通自動二輪車を運転して走行した。

(証拠の標目)

(括弧内の番号中,甲,乙に続く番号は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。)

  1. 被告人の当公判廷における供述
  2. 速度測定カード(甲1)及び捜査報告書(甲2
  3. 実況見分調書(甲4,不同意部分を除く。)
  4. 捜査報告書(甲3
  5. 捜査関係事項照会回答書(甲5

(法令の適用)

被告人の判示所為は道路交通法118条1項1号22条1項4条1項同法施行令1条の2第1項に該当するが,所定刑中罰金刑を選択し,その所定金額の範囲内で被告人を罰金8万円に処し,その罰金を完納することができないときは,刑法18条により金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置し,訴訟費用については,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(検察官向井朔,国選弁護人****各出席)

(求刑罰金8万円)

平成26年5月20日

横浜地方裁判所第5刑事部

裁判官 奥山 豪

これは謄本である

前同日同庁

裁判所書記官 菊池 麻美子